/偽義経/ヴィジュアル撮影 レポート 三宅弘城篇

『偽義経冥界歌』には2020年版の東京公演、福岡公演にのみ出演する予定の三宅弘城さん。2019年版で橋本じゅんさん演じる<弁慶>の、ダブルキャストとしての登場となります。劇団☆新感線にはこれで6度目の出演となる、誰もが認める“準劇団員”の三宅さん、じゅんさんと同じく天狗の団扇の柄が入った山伏の衣裳を着けて現れるなり「可愛い! なんでも着こなしはる!!」と旧知のスタッフたちから大好評。

モニター画面でテスト撮影をチェックしていたアートディレクターの東學さんが、衣裳の竹田団吾さんに「ぼんぼりが、ちょっとだけズレてない?」と声をかけると、早速竹田さんたち衣裳スタッフ陣が山伏のトレードマークとも言えそうな丸いフワフワした“梵天”を手で上から押さえたりして、左右の高さを微調整。加えて白い襟の部分も、左右がぴったり同じ幅になるようにミリ単位で整えていきます。

その間、仁王立ちでじっと立っている三宅さんの姿に「カッコイイ! コンパクトだけどめっちゃ強そう!!」と声がかかると、ニコニコしながら「そうかなあ?」。その柔らかい笑顔が、いざ撮影がスタートした途端に一瞬でキリっと引き締まった凛々しい表情に変わります。

東さんから「もっと顎を引いて」と言われ、ぐっと力を入れて顎を引くと今度は「引き過ぎかな?」と言われてしまって、苦笑いする三宅さん。ちょうどいい位置を探って、くるくると顎を回してから角度をちょっとずつ変えていきます。「ハイ、そこ!」と言われ、ピタッと停止。「これ、ええなあ!」と、モニター前の東さんは早速、手応えを感じた様子です。

カメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんが「目ヂカラ、ください」とリクエストすると、さらに目を開いてレンズを睨むようにする三宅さん。モニター周辺のスタッフ陣からは「カァー!」「フォー!!」などなど、不思議な掛け声も聞こえてくると、「ホラホラ、来た!」と東さんのOKサインが出て、撮影は終了。

撮影後、三宅さんにこの日の撮影の感想や、新感線の舞台に出演することに関してなどを伺ってみました。

――ヴィジュアル写真は先に撮ったものの、三宅さんが実際に稽古に参加するのはまだ少し先の話になりますね。

本当に。その頃、生きてるかどうかもわからないですよねえ(笑)。

――この『偽義経~』へのオファーを聞いた時は、どう思われましたか。

それはやっぱり、あの公演を思い出しましたよね。

――あの公演? (降板した橋本じゅんの代役として三宅が出演した)『鋼鉄番長』(2010年)ですか?

それしかないじゃないですか(笑)。

――橋本じゅんさんと、ダブルキャストでと言われたら。

ええ。そうなると、もう直結ですよね。でも、今回はもちろん条件が違いますから。そう考えるとあの時は代役として出ただけでホメられましたけど、今回は否が応でも比較されるでしょうからね。そういう恐怖は、少しありますよ。だって、じゅんさんにはじゅんさんにしかできないキャラであり、面白さがありますから。そこに僕が同じ役で入るとどうなってしまうんだろうと、正直怖いですよ。

――三宅さんには三宅さんにしかできない弁慶が。

いや、そこの自信があまりないんですよね。

――弁慶役を演じる、ということに関してはどう思われましたか。

「えっ、俺が弁慶か!」って思いましたよ。

――じゅんさんも「そうか、弁慶か!と思った」とおっしゃっていました(笑)。じゅんさんもですが、また三宅さんも三宅さんでいわゆる弁慶のイメージとはちょっと違うような。

そうでしょう? 僕、チビじゃないですか。だいたい弁慶というと、実際にそうだったのかどうかは別としても、どうしても大きい人というイメージがあるから。どっちかというと僕は、新感線に出させていただく時は特にちょこまかした役が多いですしね。ちょこまかしているか、うつけの役が圧倒的ですから。むしろ、そうじゃない役柄を演じるのは今回が初めて。一体、どういう風になるんでしょうね。まあ、そのへんはいのうえさんの演出次第ですし、そこには全幅の信頼を寄せているのですべてお任せしようと思っています。

――どういう弁慶になるか、楽しみです。

そうですね。具体的にどう作っていくかは、稽古をやりながらだと思うんですけど。でも2020年版のための稽古はダブルキャストで入る二人、僕と(山本)カナコさんのための稽古になるんでしょうね、おそらく。

――改めて、新感線に出る時の面白さというと。

それはやはり、他の場所ではできないダイナミックさがあるところ。あと、他ではできない殺陣ですね。せっかく新感線に出るからにはたくさん動きたい、という気持ちになるんですよ。たとえばナイロン100℃では逆に、KERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんから動くことを封印されたりしますから。

――今回は特に弁慶役ですから、たくさん動くことになりそうですね。

そうですね。あと、これは観ている側でも感じることだと思いますが、カタルシスがあるところ。

――舞台に立っている時も感じるものですか。

そりゃあ、感じますよ。あと、カーテンコールが終わったあととか、衣裳を脱いでいる時とか、かつらをはずしてる時とか、すごく気持ちがいいんです。

――やりきってスッキリする。スポーツのあとのような?

ああ、まさにそういう気分かもしれません。その両方があるから、新感線は楽しいんです。

――両方?

スポーツのようなやりきった感と、いのうえさんの演出の細かいニュアンスとか、いわゆるお芝居ならではの繊細な部分と。その両方が味わえるというのが大きな楽しみであり、これってとても贅沢なことだとも思います。

――そして今回は本格的な時代劇でもあるわけですが、三宅さんはここのところ映像作品でも時代劇づいていますね。

時代劇は、大好きです。ある意味、コスプレ的な楽しさもありますしね。

――今日の撮影は山伏スタイルでした。

はい。ああいう衣裳は、着たことがなかったです。初めてです。やっぱりあの、山伏ならではの丸いポンポンがいいですよね(笑)。テンションが上がって、なんだか強くなった気持ちになりました。これに錫杖とか、長い武器を持つわけでしょう。僕、長い武器での殺陣はやったことがないので。

――刀を使う殺陣ともまた、全然違うアクションになりそうですね。

はい。だから苦労するかもしれないですけど、ここでまた新たなことに挑めるというのはワクワクします。50歳になってから新しいことができるって、そんなにないじゃないですか。とても、幸せなことだと思いますね。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

/偽義経/ヴィジュアル撮影 レポート 橋本じゅん篇

『偽義経冥界歌』では、2019年版の大阪公演、金沢公演、松本公演にのみ出演することになっている、橋本じゅんさん。今回の物語では、史実同様に義経とは深い関わりを持つ人物である弁慶役を演じます。ヴィジュアルとしては山伏姿で、明るい橙色系の鈴懸衣と袴にはヤツデの葉っぱ、天狗の葉団扇の模様が入っています。この柄入りのところが「なんだか、カワイイ……」となかなか好評の模様。頭には金色と黒の布を巻き、ちょっとゴージャス。その頭巾の形を丁寧に整えたら、撮影スタートです。

「よろしくお願いします!」と、まずは勢いよく挨拶をしてからフロア中央にスタンバイするじゅんさん。その姿には、アートディレクターの東學さん、カメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんだけでなく、スタッフ一同が基本、みんな終始笑顔で見守っています。「まずは厳しい顔から、少しずつ悪い顔に」「レンズを睨んでみて」「何か、企んでいるような表情で」などの注文に、じゅんさんがひとつひとつ反応するたびにクスクスと、あちこちで笑い声がこぼれます。

「新感線の撮影でじゅんさんが、あまりしてこなかった格好かもね」と古参のスタッフが言うように、じゅんさんのこの山伏スタイル、決して濃くはしていないメイク、シリアスな表情……、いずれもが確かに新鮮なヴィジュアルです。手をグーに握った力強い立ち姿には、シャッター音に合わせてポーズを決めるごとに「カッコイイ!」との声が。いまだかつてないイメージの、一風変わった弁慶がここに誕生!

撮影途中に、決められた立ち位置から「一歩、下がって」と東さんから指示が飛ぶと、すかさず「顔の大きさの関係?」との鋭いツッコミが入ります。みんなでひとしきり笑ってから、「そうやなくて、あくまでも単に全体とのバランスの問題です!」と、東さん。キャストの顔写真を同じサイズで並べるデザインになるため、それで単に微調整が必要だった模様です。

そんな調子で笑い声が絶えないまま、順調にすべてのカットが撮影終了。早速、橋本じゅんさんにこの日の撮影のこと、この新作への想いなどを語っていただきました。

――今日の撮影の感想としては、いかがでしたか。

新感線のヴィジュアル撮影の日は長時間にわたることが多いので、いつもちょっと覚悟してくるんですけど。今日は、珍しくあっという間に撮り終わっていましたね。なんだか、まるで免許の証明写真を撮りに来たくらいの感覚ですぐに終了したので驚きました。

――今回の『偽義経冥界歌』では、弁慶役をと言われた時はどう思われましたか。

今までやったことがない役なので。そうか、弁慶か!と思いました。

――この物語の中では、いわゆる“弁慶”と言われて思い浮かべるイメージとはずいぶん違いますし、とても面白そうな立ち位置のようにも見えますね。

そうですね。しかも三宅(弘城)くんと僕がダブルキャストなんですから、光栄なことだと思います。三宅くんと二人で弁慶を分かち合いたいと思います。

――主演は生田斗真さんです。生田さんと再び共演することに関しては、いかがでしょうか。

『Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~』(2016年、以下『VBB』)以来、になりますね。また今度も、美しい斗真くんがきっと見られるんだろうな。そう思うと非常に、楽しみです。

――美しいだけでなく、オモシロもたっぷりありそうなキャラですし。

彼の芝居の振り幅もどんどん広がってきている気がします。“かっこいい”から、“真面目”から、“面白い”から。本当に、いい役者さんだなって思います。今回も『VBB』の時とは全然違う役柄ではありますが、真ん中にいてくれるととっても安心できる人でもあるので。今回も、一緒に思いっきり暴れたいです。

――橋本さとしさんと、一緒に舞台に立たれている姿がまたもや見られるのもうれしいです。

はい。だけど、さとしくんがいると僕、ついつい楽しくなっちゃうんですよね。いや本当に。この間の『メタルマクベス』disc1の時も、あれだけ「気をつけような」って言ってたのに、袖で楽しくしゃべっていたら、さとしを一瞬出トチリさせちゃって。今回は決してそんなことがないように、気をつけなきゃいけないなと思っています。

――では、お客様へお誘いのメッセージをいただけますか。

久しぶりに普通に上手と下手があるプロセニアムの劇場でやれるということが、まず、感慨深いところです。でも反面「あれ? 普通の劇場ってどうだったっけ?」みたいな感覚になってしまってもいるので、今はワクワクとドキドキが一緒にある感じはしますね。まあ、これは普通の劇場では当たり前のことではあるんですが、演じるこちら側とお客様とがお互いに“もたれかかっている”ような状態で一緒に力を合わせて作品を作っている気がするんです。でもここ1年半近くは劇場機構の関係で、そのお互いに“もたれかかる”感覚ではなく、“正対”している状態で。こちらが一方的に出力し、お客様が回りながらそれを受け止めていく感覚だったように思えるんです。もちろん、それはそれでエンターテインメント性としては非常に高かったですし、新感線にしか、あの劇場でしか、できない表現もたくさん実現できたとは思っているんですけどね。でもやはりプロセニアムの劇場の場合はその点で、演じる側とお客様と、両者の熱がいい意味でこもりやすいというか。今回はそこに戻れる、という感覚がありますね。お客様にそういう形で久しぶりに観ていただける、というのも楽しみのひとつだと思います。

――まずは大阪公演からの開幕というのも、劇団としては。

今回、それも大きいですよね。なんだか既に懐かしいです。特に大阪公演からのスタートというのは。僕としても、とてもうれしく思っています。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

/偽義経/【大阪公演】公式サイト特別受付(バルコニーS席・バルコニーA席) 2/28(木)正午~

【大阪公演】バルコニー席(条件付き)追加販売を行います。
この機会にぜひご利用下さい。


<受付詳細>
受付方法:抽選
受付日時:2/28(木)昼12:00~3/3(日)23:59
受付URL:https://pia.jp/v/nise-y19osakb/
受付席種:バルコニーS席13,800円 バルコニーA席11,500円(税込)
購入条件:2枚単位の販売

<バルコニー席についての注意事項>
※バルコニー席は座席の配置上、2枚単位でのお申し込みとなります。
お座席は高所となり、ステージ上の映像・舞台・出演者の一部が見えないシーンが出るお席となります。
ご了承の上、お申し込みください。


大阪公演情報は公式サイトにて!

お問合せ
キョードーインフォメーション
0570-200-888(10:00~18:00)

/偽義経/ヴィジュアル撮影 レポート 早乙女友貴篇

『蒼の乱』以来、5年ぶりに劇団☆新感線の舞台を踏むことになった早乙女友貴さん。今回の『偽義経冥界歌』では、本来なら“偽”ではない“義経”になるはずだった男、<遮那王牛若(しゃなおううしわか)>を演じます。

早乙女さんが衣裳をつけて控室から出てくると、ちょうどこのあと撮影が予定されている粟根さんが絶妙なタイミングでスタジオ入り。『蒼の乱』以来の共演となる二人は顔を見合わせて、「今回はよろしくお願いします!」とお互いに丁寧なご挨拶。

いわゆる“牛若丸”のパブリックイメージとはかけ離れたキャラクターになりそうな<遮那王牛若>ですが、とはいえ今回用意された撮影用の衣裳はいかにも高貴な雰囲気。「美しい!」「品がある!」とスタッフ一同から声をかけられ、照れ臭そうに微笑む早乙女さん。

衣裳の竹田団吾さんが「この役って、いけすかないキャラだったよね」と、アートディレクターの東學さんに確認すると、東さんは「でも、まずは普通の表情から撮ろうか」と返して、ここから撮影開始。「キリっとした顔で、顎はもうちょっと引き気味で、グッと目ヂカラをください!」との東さんからの注文に、凛々しい表情で応える早乙女さん。

次々と映し出されるモノクロ写真をモニターでチェックしていた東さんからの指示で、頭の位置をミリ単位で微調整することに。両手で頭をはさまれた早乙女さん、ちょうどスタッフと至近距離で目が合ってしまったようで、ついついお互いプッと吹き出しています。どうも、この侍烏帽子の位置が深めに被り過ぎていたようで、これを少し後ろ目にずらすことに。「顔がちっちゃいからスポッと入っちゃったのかもね」と言われ、早乙女さん自身もモニターをチェックしたあと、今度は苦笑い。

カメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんから「次は、ちょっとだけ笑おうか」とリクエストされ、薄く笑ってみせる早乙女さん。東さんからさらに「左の唇のはじで、悪そうに笑って」と言われると、ゆっくりとニヤリ。そのクールな表情がモニターに映し出されると「ああー、悪い顔だ」「でも、カッコイイねえ」と、周囲はザワザワ。その中の一枚に素早く反応し「これ! これ、いいじゃない!!」と満足そうな東さんの声が響くと、湧き上がる拍手と共に撮影は終了です。

撮影後、早乙女さんにも、これが二度目の参加となる劇団☆新感線への想い、今回の作品への意気込みなどを語っていただきました。

――おつかれさまでした! まずは今回の『偽義経冥界歌』への出演のお話を聞いた時、どう思われたかということについて、お聞かせください。

純粋に、ものすごくうれしかったです。僕は劇団☆新感線に出させていただくのは、『蒼の乱』以来で二度目になるのですが、前回はあまりにも緊張し過ぎていて、ほとんど記憶がないんです。その時は、まだ17歳だったんですけどね。あれから5年ぶりにまたお話をいただけて、素直にうれしいの一言です。

――『蒼の乱』の時の、記憶がないというのは。

結構、長期公演だったはずなんですが、自分があの公演の時にどんなことをやっていたのか、明確に覚えていないんです。僕、ふだんは舞台で緊張することなんてないんですけど、あの時は場当たりの時点からすっごい緊張していて。周りがまったく見えていない自分に、本当に驚きました。あの時はもうとにかく、自分の目の前のことをただただ一生懸命やろうという気持ちしかなかったです。

――早乙女さんの場合、殺陣の量も人一倍すごかったのではと思いますが。

殺陣に関しても、悪い思い出しかないんです。いや、それは自分のミスだったんですが。

――難しかったんですか?

いや、新感線の舞台で使う刀を扱うのは、あの時が初めてだったんですよ。すごく使いやすくて軽い刀なんですけど。

――ふだん使っているものとは違う?

違う感じなんですよね。インディ(高橋)さんが、作ってくださっていた特殊な刀なんだと思いますけど。すごくやりやすいのは確かなんですが、それに慣れるまでに時間がかかるというか。しかも僕、あの時は1公演で3回刀を落としてしまったことさえあって。スポン!と、手から抜けてしまったんです。

――そんなことは、今まで。

一度もしたことがなかったので、すごく凹みました。そうしたら兄(早乙女太一)もさすがに気づいて「どうした?」って心配してくれたんですけどね。自分でも「あれっ? 右手どうしちゃったんだろう?」って思いました。だけど実際、すごく使いやすい刀なんですよ。という、そんな思い出は残っています。

――早乙女さんは、さまざまな舞台作品に出られていますが、新感線の稽古場は他の現場とは雰囲気が違いますか。

違いますね。僕はもともと『髑髏城の七人~アオドクロ』、染五郎さんがやられていた舞台をDVDで観た時に、新感線という存在を知り、それをきっかけにして殺陣に真剣に取り組むようになったところがあって。それまでもやってはいたんですけれど「こんなにすごいものがあるんだ、自分ももっとがんばろう」と思わせてくれた作品だったのが『アオドクロ』だったんですね。だから、新感線に初めて出させていただいた時は本当にうれしかったです。

――そして、今回またお声がかかって。しかも牛若役。これってつまり、本物の義経ということですよね。

そうですよね。実は僕、一つ前に出演していた舞台(『遥かなる時空の中で3』)でも源九郎義経役を演じていたんです。

――義経続きですね(笑)。

あれ? 俺、義経連チャンなんだ!と気づいた時は自分でも面白いなと思って。だけど、作品自体が全然違う世界観なので。

――同じ役だと言えば同じ役なんだけれど、こちらの牛若さんは結構やんちゃで。

僕も、そう思いました。なんだか、まるでクソガキみたいな、いかにも悪―い感じ。だから、いわゆる“義経”とはまったく違うイメージのキャラクターとして演じられたらいいなと思っています。

――『蒼の乱』の時、初めていのうえさんの演出を受けてみて感じた面白さや難しさは。

いや、本当に難しかったです。でも『蒼の乱』の時にはそれほどいろいろ言われた記憶はなくて、比較的自由に動いていることのほうが多かった気がするんですよね。ですから今回は、きっとボロクソに言われそうな予感がします。

――覚悟を決めている?

決めています。腹をくくっています(笑)。

――既に稽古場で、いのうえさんの“千本ノック”は目の当たりにしているはずですものね。

はい。自分以外の人がやられているのを見ると、怖いなあと思いつつ。だけど僕自身は、いのうえさんに演出していただけた時、「わあ、あのいのうえさんにお芝居のことを教えてもらえて、段取りをつけてもらっているんだ!」ってうれしく思っていたので。だから今回も、ただひたすら一生懸命応えなきゃ、と。自分が持つ引き出しで、しっかり応えていけるのかなという不安は、まだありますけど。

――面白い立ち位置の役ですしね。

そうですよね。稽古しながらどうなっていくのかも、すごく楽しみです。だけど、とにかく一番怖いのは中島かずきさんが書かれたト書きです。「さらに殺陣のスピードが増し……」みたいな(笑)。今回、もしかしたらとてつもない殺陣やアクションをやらなければならないかもしれません。

――そういうシリアスな殺陣もありつつ、ちょっと変わったキャラクターでもあるので。

そうなんですよ。オモシロの場面のほうが、むしろ怖いです。それこそ、いのうえさんに千本ノックされそうですが、でもしていただいたほうが幸せを感じますね。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

/偽義経/ヴィジュアル撮影 レポート 山内圭哉篇

劇団☆新感線には『髑髏城の七人』Season風以来、これがなんと5回目の参加となる、誰もが認める“準劇団員”の山内圭哉さん。『偽義経冥界歌』では弁慶とコンビのように共に行動する<常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)>を演じます。ご覧の通り、ヴィジュアルはいわゆる“山伏”スタイル。

この格好でスタジオのフロアに現れた山内さんの姿を見て、スタッフはそれぞれ「めちゃめちゃ似合うね」「それにしても綺麗な顔立ちだこと」「カッコイイ! いつも通り、強そうだね」などと声をかけています。頭頂には黒い兜巾(ときん)が紐で固定されているのですが「それ、取ったら六角形の跡がついているのかな?」「これだと絶対、日焼けはできないね」などなど、こちらにもみなさん興味津々。その兜巾の位置を含め、アートディレクターの東學さんがモニターを見ながら最終チェック。その指示を受け、袖の張り具合の左右のバランスを見たり、ヘアメイクの担当スタッフが目尻のアイシャドーを少し足したりして表情がよりくっきり美しく写るように、細部にわたって調整しています。

さらに東さんが「その“ぼんぼり”(梵天)の位置はここでいいのかな?」と声をかけると、衣裳担当の竹田団吾さんが自ら確認しつつ微妙に修正。襟も丁寧に合わせ直すと、撮影開始です。

カメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんからの「もうちょい顎、ひきましょうか」「眉間に皺を寄せてみて」など、細かい表情の注文に応えていく山内さん。その眉間に皺を寄せた渋めの表情が「あ、それ、いいじゃん!」「素敵!」と、なかなか好評の様子。すると次は「ちょっとだけ笑ってみて」とのリクエストが入り、照れてしまったのか、ここではなぜか不自然なほどの笑顔に。「笑いすぎ!」と周囲のスタッフたちからツッコまれ「やっぱりいかついのでいこう」と言われて、再びキリリと引き締まった表情になる山内さんに「おお、ええね!」と東さん。渞( さんずいに首=みなもと )さんも力強くOKサインを出して、あっという間に撮影完了です。

撮影が終わった直後の山内さんにも、新感線の舞台に出演することや、共演陣への想いなどを伺いました。

――あの衣裳を着てみての撮影、ご感想はいかがでしたか。

山伏の衣裳を着たのは初めてなんですけど、なんだかしっくりきましたね。まるで、以前に着た事があるような気分でした。それにしても、(東)學さんとご一緒するのは、かなり久しぶりやったんでうれしかったですね。自分のプロデュース公演のチラシのデザインとか、學さんにずっとやってもらっていたんですよ。

――この『偽義経冥界歌』へのオファーを聞いた時は、どう思われましたか。

演目がどうこうではなくて、新感線の場合はこうして定期的に呼んでいただくこと自体に喜びを感じているというか。やっぱり、僕も劇団というものには所属していないですから、役者という仕事を下請けと考えると、何度も同じところから発注が来るというのは本当にありがたいことなんです。特に他のところとちょっと違うのが、関西出身の小劇場の人間にとって新感線は本当にいつも面白くて体力があって「こんなことできんの?」みたいなすごいことをがんがんやらはるようなお兄ちゃん、みたいな存在なので。ガキの頃から観ていた、そういう先輩たちの劇団から誘われたらまず断れないですよ(笑)。しかもこのお話をいただいたのは『髑髏城の七人』の“Season風”がそろそろ動き出すくらいの頃、そんな早い段階でお声がけいただいていたので。お兄ちゃんたちが信頼してくれている!と思うと、これまたじわじわとうれしくなりますね。

――では、そのあとから『偽義経』のあらすじを聞いたわけですね。

ええ。新感線の劇団公演ではなかったんですが、『鉈切り丸』(2013年)という作品も源平時代の話とシェイクスピアの『リチャード三世』を混ぜたようなお話で。新感線は、いわゆる時代劇というものを上手に遊ばはるじゃないですか。僕も、さまざまなジャンル、さまざまな時代の作品を演じてきましたが、なかでもこういう時代劇ってすごく遊びやすいというか、嘘をつきやすいというか。ごっこ遊び的に言うとね。

――コスチュームプレイとしての楽しさもありますし。

そう、それで調子に乗ってはしゃいでもOKなジャンルというか。言えば、その『鉈切り丸』にも僕は出ていたので、学校で習っていた日本史なんかは真面目に勉強していなかったですけど、その時代のことに多少は詳しくなってて。登場人物の関係性や名前なんかも、知らん間に覚えてましたしね。

――山内さんが演じる<常陸坊海尊>というのは、基本的に弁慶と一緒に動く役まわりですね。その弁慶は今回ダブルキャストで、前半は橋本じゅんさん、後半は三宅弘城さんです。

面白いですよねえ! あまり今までそういう経験がないんですよ。同じ演目で相手役が途中で変わるなんて。でもじゅんさんと三宅さん、どちらも良く知っている方ですし、なにしろキャラクターがまったく違うわけですから。二度、楽しめそうです。

――同じ役柄が、果たしてどこまで変わるのか楽しみです。

『髑髏城~』シリーズの時も、自分が出ていない他のシーズンの舞台をできる限り観させていただいたんですが、自分が演じた役も含めて、同じ演目のいろいろな役を違う役者が演じるという面白さを経験しました。今回は同じ演目を演じながら、相手役だけが前半と後半で変わるというのは、どんな感じになんのやろっていう新しい楽しみがありますね。

――そして主人公を演じるのは生田斗真さんです。生田さんと共演することに関してはいかがですか。

ずいぶん前から、自分の出ている舞台をよく観に来てくれていて、一緒に仕事はしたことがないのに知り合いになっていたというか。で、斗真くんからも「何かでご一緒したいです」って言っていただいていたので、ここでやっと一緒にできるなあと思ってうれしかったです。ジャニーズ事務所の方々とは過去何回かご一緒していますけど、本当におののくんですよ。なんでしょうね、幼少の頃から鍛えられている身体能力と、華みたいなものと、仕事に対する真摯な姿勢と。斗真くんとはこれが初共演なので、仕事をする際にはどういうタイプの役者さんなのかは知らないですけど、でもまた違うジャニーズの子とやれる楽しさ、みたいなものもありますし。そう考えると今回、楽しみばっかりです(笑)。

――いいことですね、精神的にも(笑)。

はい。体力的にはキツイでしょうけども。

――今回もまた、たくさん動かされそうですか。

いや、でも“Season風”をやってて良かったです。“風”に出ている時にはホント、見えへん星みたいなものが見えましたからね。

――見えへん星、とは?

死兆星みたいなものが。これを見たら死ぬ、みたいな。

――死の兆候が見える星?

ええ、ええ。だって「俺、死ぬな!」って、何回か思いましたもん。

――そんなにキツかったんですか。

キツかったです。もともと僕はふだんから、それほど身体を動かすほうじゃないんですよ。快楽主義なので。動かさずにすむなら動かしたくないタイプなので。

――じゃ、いまだかつてないくらいに身体を動かされた。

だから、それを一回乗り切った経験があるわけですからね!

――では、あそこまではおそらくキツくはないだろうと?

いやいや、でも油断するととんでもないことになりそうですから、絶対に油断はできないです。せっかく信頼してもらったのに、ケガして足を引っ張ることになったら困るし。ここは前回以上に、気をつけますよ。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

/偽義経/ヴィジュアル撮影 レポート 粟根まこと篇

今回の『偽義経冥界歌』では、誰もが知る歴史上の人物<源頼朝(みなもとのよりとも)>を演じることになった粟根まことさん。今回のヴィジュアル撮影では本格的な鎧を着込むことになり、出演者の誰よりも着付けに時間をかけて準備します。着付け中の控室を覗いてみると、いつものスタッフ陣に鎧担当のスタッフも加わり、ひとつひとつ、パーツを装着していっています。

「へえー、昔の人はこれで戦うの?」「装飾美がすごいね!」「なんかちょっとガンダムみたい……」などと、口々に感心しながら着付けを見学するスタッフたち。よく見ると左右でデザインが違うパーツがあるのですが、それは「馬に乗っているから、左手が伸ばしやすいように違うデザインなんですよ」と教えられ、「ホント、よく考えられているよね!」と、粟根さんも着付けされながら興味深く耳を傾けています。紐も、一見すると蝶々結びのようにも見えますがちょっと違う特殊な結び方で、ピッと引っ張るだけですぐに取れるような工夫がされているのだとか。

烏帽子をかぶってフロアに出てきた粟根さんの姿にも「また、こういういでたちも似合う!」「お仕え申したいねえ」「戦う衣裳だね、素敵!」と絶賛の嵐。すると、衣裳スタッフが背後のひもの特殊な結び方を熱心に写真で記録したりもしていたため、「なんだか今日は被写体というより、鎧のモデルになった気分ですね……」と呟く粟根さん。

しかし、これだけしっかりと本格的に着込んだというのに、実を言うと足元はスリッパ! これには「なんて無防備な!」と、周囲はみな大笑い。

クラシックな眼鏡を装着したバージョンと、しないバージョンを両方撮影することになり、まずは“ナシ”からということで眼鏡をはずすと、「取った途端にカッコイイ!」「いかにも公家っぽい」とのコメントに加え「でも瞳が見えた途端にやっぱり殺し屋に見える!」とのお馴染みの意見には、ニヤリと笑う粟根さん。キリっと表情を引き締め、撮影が始まるとその凛々しさに「このまま大河ドラマに出られそうだねえ」との声も聞こえてきます。

カメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんの指示で、身体の向きを変えたり、右手を挙げたり、口元をギュッと結んだり。さらにアートディレクターの東學さんからは「もっとぐわーっと睨んで」「次は無表情で」「めっちゃ怖い顔して。もう充分怖いけど!」などなど、細かい表情のリクエストが飛んでいます。

後半は眼鏡“アリ”のバージョン。眼鏡を装着すると早速、「粟根さん、キター!」と拍手が。眼鏡の位置を調整すると、再びシャッター音に合わせて無表情からニヤッと笑ったり、眉間に皺を寄せたり、やがて怖い顔へと、徐々に表情を変化させていきます。すると、このタイミングでスタッフがあることに気づきました。「源頼朝を、みなもと(さんずいに首)さんが撮ってる……!」「ホントだ!!」と、ここでまたしてもひとしきり盛り上がるスタジオ内。この日の撮影も順調そのもの、なのでした。

撮影終了後、粟根さんにも源頼朝を演じることや、作品への想いなどを語っていただきました。

――まずは本日の撮影の感想から、お聞かせいただけますか。

今回着させていただいたのは撮影用の鎧で、ほぼフル装備です。これが舞台用のものではないので、大変重い。重くて分厚いし、こしらえがすごく豪華で、本物を着た感があってなんだかすごくありがたかったです。戦国時代の人って、大変ですね。あんなの、ひとりでは到底着られませんから。

――あんなにいろいろ細かくパーツが。

分かれているとはね。あれも、長年かけて編み出された効率的なものなんでしょう。その上、美しさも備えているんですから素晴らしい。今回は偉い人の役なので、チラシではこうして立派な鎧も着込んで偉い人風に写りますけれども、本作の頼朝は一切戦いませんからね。おそらく本番では、すごく情けない頼朝になっていることでしょう(笑)。

――今回、頼朝役をと聞いた時は、どう思われましたか。

まさか、自分が源氏の棟梁を演じることがあるとは思いもしませんでしたから。だいたい、派閥の長というものをやったことがなかったですし。

――トップの右腕とかは、やったことがあっても。

そう、部下ならやったことはあるけど、トップはやったことがないので。しかも別に誰かに操られているというわけでもなく、ちゃんとした長ですからね。今回は奥華一族と、鎌倉方というか源頼朝方と、平家はほとんど出てきませんから、京都の公家チーム、この三つ巴の戦いで、その中のひとつの一応リーダーです。ま、たいしたことはしませんけどね。

――頼朝なのに(笑)。

色恋沙汰ばかりという(笑)。もともと頼朝ってあまり、戦の前線で戦う人ではなく、政治家的な人なんだと思います。いろんな外交手腕を使って、鎌倉幕府を作り上げたので。

――自ら刀を振り回したりはしない。

戦うのは、義経ら弟たちにまかせていたようです。

――今回は、史実入り混じった物語になっていますね。

しかも結末としては、ほとんどが史実通り。もちろんフィクショナルな展開はありますけれども、歴史の流れとしては史実と同じになっているところは、いかにも中島さんらしいこだわりですよね。そして、勢力が二転三転して最終的には、絶対にここでは誰とは書けない悪役が出てきて、それにどう義経が立ち向かうのか……!?というところが見ものなんじゃないかなと思います。

――そして主役を演じるのが、生田斗真さんです。

まさに今回の見どころは中島かずきの、いのうえ歌舞伎としては『蒼の乱』(2014年)以来の完全新作だということと、いのうえ歌舞伎の新作で主演を張るのは初めての生田斗真くん。この顔合わせから、何が生まれるか?というところなんじゃないかと。斗真くんが新感線に出た最初の作品は『スサノオ~神の剣の物語』(2002年)だったので、これも一応いのうえ歌舞伎ではあるけど主役ではなかったし。あと『Cat in the Red Boots』(2006年)は戸田山雅司さんの脚本でしたし、『Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~』(2016年)は宮藤官九郎さんの脚本だったので。そういう意味では斗真くんが憧れていた、いのうえ歌舞伎のセンターを初めてがっつり張れるわけなんですけど、役柄としてはやっぱり今回も結局“おバカさん”キャラなんですよね(笑)。でも政治的駆け引きがあったり、呪術的な力を持つ人たちと張り合ったりできるというのは、やはり偽義経が持っている行動力とポジティブさが苦難を打破する力になるので、まさに斗真くんらしい活躍がこの舞台でも楽しめるのではないかと思います。

――斗真さんでないと演じられないキャラですよね。

そうです、ひたすらまっすぐな感じの……強いバカ。とにかくピュアなんですよ。そのピュアさが強さにつながるというところが、きっとラストでぐうっと盛り上がるはずです。ああやって勝つのか!と納得するシーンになることでしょう。あともうひとつ、僕が個人的な見どころ、聴きどころだと思っているのが藤原さくらさんの歌声。初舞台ということですが、歌姫のような役ですからね。その歌声はもちろん、楽器も物語の重要なキーポイントになりますので、ギタリストとしての藤原さんのファンの方も楽しめるし、シンガーソングライターだと思っていた一般のお客さんもきっと「へえ、こういう人なんだ!」と驚いていただけるのではないでしょうか。歌の力のすごさは、この間までやっていた『メタルマクベス』でも思い知らされましたが、今回はそれが再び顕著に表れるのではないかと思いますね。その『メタルマクベス』disc1ではチラシの一番上に名前が載っていた橋本さとしくんが、今回は一番下、トメの位置におりまして。『メタルマクベス』ではランダムスターとマクベスという激しく苦悩する難しい役回りでしたが、今度は斗真くん演じる偽義経こと玄久郎と、中山優馬くん演じる泰衡という、ふたりの息子の実の父。実際にお父さんでもある橋本さとしがこの役をどう演じるのか、前回とはまた別の重さを堪能させてくれるのではないかと思います。さらに、いまや売れっ子の山内圭哉くんは、いのうえさんの信頼も厚い俳優さんで。今回は、橋本じゅんさんと三宅弘城さんがダブルキャストで演じる弁慶役とコンビを組む役なので、もしかしたらいろいろと割を食うのかもしれない、振り回される役まわりになるかもしれないですが(笑)。でも彼は本当にうまいので、びしっと決めてくれるはずです。それから、りょうさんですね。『髑髏城の七人』Season花の時、私はご一緒できませんでしたので、個人的にも今回共演できることがすごく楽しみです。そして『蒼の乱』以来の早乙女友貴くん。あの時はまだ17歳の初々しかった男の子が、いまや結婚し、夫となっていて。さらにぐっと成長した友貴くんとご一緒できるとは、本当に楽しみです。それに加えて、ほとんど裏キャラクターのようになっておりますが、新谷真弓さんが久しぶりに新感線に出ます。これも、マニアにはたまらないんじゃないかと思うので、ぜひ東京の新谷ファンは大阪公演か、金沢公演、松本公演を観に来てください。あと、そうそう、今回は奥州“藤原”の話に“藤原”さくらさんが出るということと、今日“源”頼朝の写真をカメラマンの“ミナモト”さんに撮っていただき、この東国武士たちの話のチラシを“東”という苗字の男がデザインするという、ね。ま、學さんは大阪の男ですけど(笑)。こうしていろいろな偶然がスタッフにも絡んできているという、大変おもしろいことになっております。

――良くできています(笑)。

まあ、日本人は判官贔屓ですので、もともと義経人気はとても高く、どうしても頼朝や梶原景時は悪者にされてしまいがちで。しかも今回は一切自分は戦わない軟弱な頼朝を守ってくれるのは、川原正嗣さん演じる強い景時ですので、アクションは景時にまかせます(笑)。とりあえず源平の時代と言っても、平家の話はほとんど出てきませんから源平と、奥州藤原三代のごく基本的なことについて、中学や高校で習う程度のことだけでもちょっと調べておいていただけると、物語がさらに楽しめるんじゃないかと思いますよ。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

/偽義経/ヴィジュアル撮影 レポート 藤原さくら篇

「おねがいしまーす!」という明るい声と共に、スタジオのフロアに登場した藤原さくらさん。その可憐ないでたちに「あら、カワイイ!」「顔、ちっちゃいね、手のひらサイズ?」とスタッフたちが思わず声をかけると、藤原さんも「えへへ」と照れ臭そうににっこり。今回、劇団☆新感線には初参加の藤原さん、<静歌>という役は“歌うたい”という役回りではあるものの、今日のヴィジュアル撮影では楽器も持たないので歌い手の要素はあまりなく、ただただキュートな着物姿。“姫カット”のようなヘアスタイルも、ふだんの藤原さんとはまったく違うイメージで新鮮です。

カメラの前に立ってバランスを見ると、ちょっと帯の位置が高めだったため、衣裳スタッフがその場でギュッと下げて、調整します。「よいしょ!」と下げる衣裳さんに、ニコッと微笑む藤原さん。「なんだか瞳がキラッキラしてるよね!」と、ますますスタジオ内のテンションは上がる一方。

アートディレクターの東學さんがモニターで部分的にアップにしてみたりしながら全体をチェックした結果、口紅の色を、より濃いめの赤に変更することに。その場にメイク担当スタッフが口紅を持参し、藤原さんは目を閉じて口紅を塗ってもらっています。

やがて準備が整うと、撮影開始。東さんはまず「ハイ、真顔で!」と表情を指示し、その後も「もうちょっと顎をひいて」「だんだん、微笑んでいって」など、細かくリクエストを出していきます。じわーっと少しずつ笑顔になっていく藤原さんに「かーわいいっ!」と、またあちこちから声が上がります。

襟の合わせの位置をきっちりセンターにくるようにし、頭の位置もまっすぐになるようにモニターでチェック。ちょっと油断するとすぐ首が斜めになってしまうようで「ほら、首がまた傾げてきてるよ」と言われると、無意識だということもあって藤原さん自身はちょっと困り顔。そこでカメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんが「まっすぐ立つって、意外に難しいんだよね。でも、ちゃんと指示するから大丈夫!」と心強い言葉をかけると、「ハイ!」と元気よくお返事。

照明を直すちょっとした合間にはBGMの音楽のリズムに合わせて身体を揺らしてみたり、キュッと目を閉じてみたり、撮影レポート用のカメラを見つけてこっそりピースサインを送ってみたり。徐々に緊張もほどけてきている様子です。

後半には「じゃ、次はもっと優しい表情で撮ろうか」と注文が入り、「ハイ、やさしーく」「お、ええね、かわいいぞ!」などの声に混じって、やはりまたしても「ほら、首が倒れてきたー」と指摘されてしまい、柔らかい笑顔と苦笑いとを交互に見せてしまう藤原さんなのでした。

撮影終了後、劇団☆新感線には初参加、しかもなんとこの作品が記念すべき初舞台にあたる藤原さんに、作品への想いや意気込みを語っていただきました。

――まずは今日の撮影の感想から聞かせていただけますか。

今回、どういう衣裳でどういうメイクなのかが今日ここに来て初めてわかったので、静歌という女の子はこういう子なんだというのが少しだけわかったような気がしました。だけど、正面を向くというのが意外にすごく難しくて。

――苦労されていましたね(笑)。

ふふ。正面ってどこなんだろう?って悩みました(笑)。

――ふだん意識したことないですよね、真正面って言われても。

ないですねえ(笑)。どうやら私、片方の肩が下がってるみたいで。「いつもギターを持ってるから下がってるのかな?」と言われました。

――こういう和装で写真を撮られるのも。

もう、すべてが初めてです。仕事以外でも、成人式の時に振袖で写真撮影して以来かもしれません。

――初めてのことばかりですね。劇団☆新感線にも初参加ですし。出演オファーがあった時は、どう思われましたか。

最初、お話を聞いた時にはものすごくビックリしました。演技をやったことはあるといっても、本当に少しだけですし。もともと声を張り上げて歌うタイプでもないので、自分が舞台の上でお芝居をして歌を歌うだなんて、どういうことになるのか全然想像がつかなかったんですけど。だけどものすごく面白そうだなと思ったんですよね。私自身も、新感線の舞台は何度も観たことがありますし。

――そうだったんですか?

はい。『髑髏城の七人』は2回観ました。福士蒼汰さんが出ていた“Season月”<上弦の月>と、天海祐希さんが出ていた『修羅天魔~Season極』。そのあと『メタルマクベス』を観て。もちろん今回は客席が360度回転するわけではないですけれども、え?自分もこの舞台に出るんだ?と思いながら観てしまって。もちろん楽しみではあるんですけれども、新感線ってとんでもなくタフな舞台だなと改めて思いました。

――初舞台で新感線に挑むというのは、なかなか勇気が必要だったんじゃないかなと勝手に想像したんですけれど。

そうですね。舞台好きな人だったら、新感線を知らない人はいませんし。私も出演させていただけることになって早速、母に伝えたら、お母さんが「ええっ、新感線に出るの~!?」ってとてもビックリしていて。感激もしていましたね。そのくらい、みんなが知っている舞台で演技ができるなんて本当に光栄なことですから、がんばって準備していきたいと思いました。

――具体的にはどんな準備を?

さっき「お尻を鍛えたほうがいい」と言われたんですけど(笑)。着物も、今日はほんの短い時間しか着ていなかったのに、なんだか腰が痛くなってきてしまって。「腰が痛い……」って言っていたら、スタッフの方から「身体づくりはしっかりしておかないと」と言われちゃいました。あと私、大原櫻子ちゃんがお友達で、『メタルマクベス』の“disc2”を観に行った時にも話をしたんですけど。「新感線に出るのはすっごい大変だから!」と、何度も舞台には出ていて、ジムにもちゃんと通っている彼女が言っていたので、いろいろ教えてもらうつもりです。

――経験を積んだ先輩がすぐ近くにいてくれて、心強いですね。

いや、本当にそう思います。良かった……!

――そして藤原さんは今回“歌うたい”の役ですね。

そうなんです、大陸から来た“歌うたい”の女です。

――キャラクター的には、まだ謎でいっぱいですね(笑)。

ふふふ! ただ、楽器を弾いて歌う女の子だということは聞いているのですが、どういうスタイルなのかはまだ全然わからなくって。楽器も“六絃(ろくしん)”というものらしいですが……まあ、これはきっとギターのことなんでしょうね(笑)。でもどういう形なんだろう、変わった形なのかなあ? きっとライブで歌う時とはまた、全然違う歌い方になるんだろうなって思いました。

――ギターを弾きながら歌うというのは、まさに藤原さんのスタイルですよね。きっと藤原さんにあてて、中島かずきさんが書いてくださったんだと思いますが。

はい、“あて書き”してくださったみたいで。台本を読ませていただいた時には、すごく芯のある強い女の子だなと思いました。

――そして福岡ご出身なので、最後に福岡公演で締められるのはうれしいのでは、と思いましたが。

はい。博多座でやれるのは本当にうれしい! 母もとても喜んでいますし、友達からも「絶対に観に行きたい!」と連絡がありました。

――稽古前に準備しておくのは、まずは身体づくりと?

そうですね。あと発声もやっておきたいです。今までの歌い方とは全然違ってくるだろうし。普通にしゃべっているだけノドを潰しちゃうらしく。長く続く公演ですので、その点もしっかり気を付けたいなと思います。

――個人的に楽しみなことは何かありますか。

舞台の稽古というものがどんな感じなのか全然わからないのでまずはそれも楽しみですし、あと全国各地に行けることもすごく楽しみなんです。ツアーでも各地をまわっていますけれども、終わったらすぐ帰ることが多いので、長期滞在になるのならそれぞれの場所で観光できたらいいなと思いました。

――では最後に、ファンの方に向けてお誘いのメッセージをいただけますか。

私がこの舞台に出演することを告知をした時、「ええっ、舞台に!?」とみなさんかなり驚かれたことと思います。でも私は今回、きっとすごく大きいものがつかめるような、いい経験ができるような予感がしてならないんですよ。ぜひとも観に来ていただきたいので、劇場に遊びに来てもらえたらなと思います。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

/偽義経/ヴィジュアル撮影 レポート  中山優馬 篇

生田斗真さん演じる主人公の弟<奥華次郎泰衡おうがのじろうやすひら>に扮する中山優馬さんは、今作が劇団☆新感線に初参加なのに加え、生田さんともこれが初共演になるということでも注目を集めています。さらに大阪府出身ということもあり、スタジオ入りするなり、関西地方出身者が多い新感線スタッフ陣と「出身はどこ?」から始まり、「その学校知ってる!」「実家が近所!!」などなど、ローカルなおしゃべりでひとしきり盛り上がっています。そうしてすっかり打ち解けたところで控室に向かい、メイクと衣裳の着付けへ。

時間のかかる準備を終え、衣裳と烏帽子をつけた中山さんがフロアに再登場すると、「爽やか!」「好青年!!」「すごく似合うね!!!」と四方八方から声がかかり、ちょっと恥ずかしそうに照れ笑いする中山さん。早速、決められた立ち位置にスタンバイするとキリっとした表情でレンズを見つめます。

顎ひもの位置が、襟の合わせた部分に重ならないように微調整すると、撮影がスタート。アートディレクターの東學さんが「ちょっと顎を引いて」と指示するほか、あとは身体の向きを多少修正するくらいで、全く問題なく着々とシャッターが切られていきます。「お、今のいいね!」「はい、OK!」と、ちょっとビックリするくらいのスピードでOKカットが撮れてしまい、ここで撮影は無事に終了。この早さは中山さんにも予想外だったようで、キョトンとしつつ「え、いいんですか、もう大丈夫なんですか?」と聞くと、モニター前で最終チェックをしていた東さんもスタッフ陣もみんな揃って「カッコよかったよ!」と、笑顔で大きく頷いています。

このヴィジュアル撮影の直後に、中山さんに劇団☆新感線に初参加することや、作品への想いなどを語っていただきました。

――新感線に初参加することが決まった時、まずどう思われましたか?

「わっ、新感線だ!」って思いました。これはもちろん、うれしい「わっ!」です(笑)。ただやっぱり、プレッシャーも同時に感じました。うちの事務所の人たち、後輩も含めて何人も新感線の舞台には出させてもらっていますから、僕としては「ヤッター!」という気持ちもあります。新感線の舞台は、まだナマで観たことはないんですが、とにかく“エンタメの極致の劇団”という印象を持っています。

――台本を読まれた感想はいかがでしたか。

いや、まさに新感線って本当にこういう感じなんだ!と思ったというか。ともかく自分としては、ものすごく大変なことになりそうだなと思いました。

――本格的な時代劇に出る、ということに関してはどうですか。

時代劇というとそれほど経験はないほうかもしれないですが、和物の芝居には何本か出ていますし、歌舞伎の経験もあるので。そういう意味では久しぶりにこういう衣裳を着て、懐かしさを感じたりもしました。

――でも、あの衣裳で刀を振り回して思いっきり立ち回りをする、というのは新鮮かもしれないですね。

はい。相当、体力も必要になりそうですし。だけど、とても楽しそうだなとも思っています。

――しかも、生田さんとはこれが初共演になりますし。

いやあ、うれしいです。やはり、ジャニーズ事務所の中で役者として確固たる地位を築いている方なので。その方の芝居を間近で見られるというのはとても勉強になるでしょうし、ありがたいですね。

――中山さんはさまざまな劇作家、演出家の舞台に出ていらっしゃいますが、映像とは違う舞台ならではの面白さはどういうところに感じられていますか。

映像との決定的な違いは、やはり舞台上には生身の人間がいるということでしょうか。実際に呼吸が聞こえるというか、見えるというか。目の前で人間が生きている姿をそのまま観られるというのが、お芝居の一番面白いところだなと思います。

――今回、アクションがいっぱいあることに関してはどうですか。

そうですねえ。これまでも結構、アクションや殺陣をやらせてもらってはいるんですけど、実を言うと得意分野じゃないんです(笑)。むしろ苦手なほうなんですよね。でも、そういう苦手なものに挑めたり、初挑戦のものがあったりするとよりワクワクするほうなので、この機会に思い切りがんばろうと思っています。

――共演者の中で、生田さん以外で気になる方はどなたですか。

橋本さとしさんですね。気になります(笑)。僕、大阪で舞台作品を紹介したりする番組をやっていまして、それでロケに行ったりもしているんですが、そこでちょっとご縁があってさとしさんとは何度か共演させていただいているんです。さとしさんが出演される舞台の稽古場に、自分がインタビュアーとして取材に行き、いろいろなお話を聞かせていただいていて。だから今回ご一緒できると聞いて、すごくうれしかったんですよね。

――しかもお父さんの役で。

まだ僕が台本をもらっていないくらいの時期に大阪でお会いすることがあって「よろしくお願いします」と挨拶させていただいたんですけど。「俺が、お父さん役だからね」ってフライング気味に教えてもらって「あ、そうなんだ!」って(笑)。

――そして、生田さんがお兄さん役です。

いや~、ホント贅沢ですよ(笑)。舞台の上とはいえ、あんな兄貴を持てるなんて光栄です!

――藤原さくらさんとは初共演ですね。一緒に歌ったりする場面もありそうですが。

そうなんですよ。歌、がんばらないと!と思いました。今回、本当にがんばらなきゃいけないポイントがたくさんあるんです。

――外部の公演に出る時の面白さや難しさは?

どうなんでしょうか、今は勉強させていただいている、という気持ちが強いです。さまざまな経験をさせていただけることもあって、またさらに勉強ができるなあってどの現場でも思いますしね。そしてどの現場でも年齢的には下から数えたほうが早いので、その点はありがたいです。

――みなさんに教わったりできるし。

「おまえ、そのキャリアでそんなミスするなよ」とは言われないですから(笑)。まだ「おまえ、キャリアないなあ、まだまだだな」と言われる立場でいられるのは、とてもありがたい。だから今回もあまり気負いせずにいこうと思っています。

――特に今回の公演について、自分の中でテーマや目標はありますか。

早めにダサいところを見せたいですし、早めに恥をかいておきたいなと。

――そのほうが、稽古がうまくいく?

そうですね。誰よりも最初に、大きな声を出していくつもりでいます。

――稽古場では、みなさんにかわいがっていただけそうですね(笑)。

ぜひ、かわいがってもらいたいです(笑)。

――稽古前に準備しようと思っていることは。

時代劇ならではの所作とか、基本の動きくらいは改めてもう一度予習しておこうかと思います。

――ではお客様に向けて、中山さんからメッセージをいただけますか。

とにかくものすごい方々が出ていらっしゃる舞台ですから、これは必見モノですよ!ということと。なにより自分たちと同じ人間たちが目の前で生きて、その生きざま、ドラマをナマで目撃できるという空間は、やはり芝居ならでは味わえるものなので。この機会にぜひ劇場で、それを体感していただきたいと思います。僕も精一杯、がんばります!

TEXT:田中里津子 映像撮影:エントレ

/偽義経/【大阪公演】公式サイト特別受付(サイドS席限定) 2/14(木)18:00~

【大阪公演】公式サイト特別抽選受付(サイドS席限定) を行います。
この機会にぜひご利用下さい。

<受付詳細>
受付方法:抽選
受付日時: 2/14(木)18:00~2/20(水)23:30
受付URL:http://eplus.jp/niseyoshitsune/
受付席種:サイドS席 13,800円(税込)
枚数制限:お一人様2枚まで

※サイドS席は端寄りのお席のため、見えないシーンが出るお席です。予めご了承のうえ、ご購入ください。

大阪公演情報は公式サイトにて!

お問合せ
キョードーインフォメーション
0570-200-888(10:00~18:00)

/偽義経/ヴィジュアル撮影 レポート りょう篇

『髑髏城の七人』Season花に引き続き、再び劇団☆新感線に出演することとなった、りょうさん。『偽義経冥界歌』では、生田斗真演じる主人公の義母にあたる奥華一族の巫女長(みこおさ)<黄泉津(よもつ)の方>を演じます。

と、いうわけでヴィジュアル撮影で用意された衣裳は巫女スタイルをベースにしつつ、それを華やかにアレンジしたもの。メイクを終えたりょうさんがその衣裳で控室から姿を現した途端、その神々しさに「おぉ~、素敵!」とため息にも似た声がスタッフ陣から漏れ聞こえてきます。

すると、撮影直前にりょうさんの頭に載せられた天冠を見たアートディレクターの東學さん、「あれ? 鳳凰はつけないの?」と衣裳担当の竹田団吾さんに確認。「今からでもつけられるよ。つけてから撮ってみる? 鳳凰、くださーい!」との竹田さんの指示で、すぐさま鳳凰の飾りを持ったヘアメイクのスタッフが登場し、冠のてっぺんに鳳凰の飾りをドッキング! 一気に豪華になり、存在感を増す冠。しかし何枚かテスト撮影をして検討を重ねた結果、高さが出てしまうことや全体のバランスを見て、やはり鳳凰の飾りははずしておくことに決定。再び、最初の冠に戻し、髪の後れ毛を整えると、いよいよ撮影開始です。

途中で、カメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんが首の傾き加減を気にする様子を見せると、モニター前から移動してきた東さんがりょうさんの正面に立ち、改めて左右のバランスをチェック。それが結構な至近距離だったため、りょうさんはついつい照れ笑い。

正面を向いた状態でポーズが決まり、シャッター音に合わせてモニターに撮影済みの写真が次々と展開していくと、それを眺めながら「かっこええ~」「これ、俺、好っきやな!」と嬉しそうな東さん。薄い眉が今回のメイクのポイントになっているようで、メイクスタッフによるちょっとした直し作業も実に繊細。丁寧にじっくりと眉を直している間、ヘアの担当スタッフたちもりょうさんの周りを取り囲み、後れ毛や冠の位置を細々と微調整していきます。その様子を見ていた東さんが「大人数で、よってたかって!」とツッコミを入れると、きりっとクールな表情をキープしていたりょうさんも「アハハ!」と大きく笑っていて、この一瞬だけは役柄を離れて気さくな素顔がこぼれています。

準備が整えば、撮影再開。「次は、もう少し優しい顔でお願いします!」と言われたりょうさんが、ふわっと微笑むと「ハイ、これもいい!」と、どうやら手応えがあった様子。その後も「もう一度、キリっとした表情で。おお、グー!」「うん、綺麗! OK!!」と撮影は順調に進んでいきます。

無事撮影が終了後、りょうさんに、早くも再び劇団☆新感線に出演することになったいきさつや、『偽義経冥界歌』への想いを語っていただきました。

――撮影、お疲れさまでした。『髑髏城の七人』Season花以来の新感線ですね。まさか、こんなに早く、再び新感線に出ていただけるとは!という感じですが。

はい、私もすごくうれしいです!(笑) “花髑髏”の時には、まだまだ先の話だなーと思っていましたけれど、なんだかあっという間で。気づいたらもう、準備が始まっちゃっていました……!

――“花髑髏”の出演時に、りょうさんが自ら「新感線にまた出たい」とおっしゃっていたという噂でしたが、それは間違いではないですか?

はい、間違いありません! ものすごくアピールしておりました。正確には「“女兵庫”で出たい!」とアピールしていたんですが(笑)。つまり、私が出ていたのは“花”だったので……。

――その後の髑髏城シリーズのどこかでもう一度、出たいと?(笑)

そうなんです(笑)。シリーズの最後まで1年あるなら間に合うかもと思ったんですけど、さすがにダメでした(笑)。

――兵庫役を狙うというのは驚きでした。

だって兵庫って、すごく面白い役じゃないですか。自分が男の子だったら絶対に、兵庫をやってみたい!と思っていたはずです。そんなことを考えていたら、だんだん新感線の舞台だったら別に兵庫は男じゃなくても、女でもいいんじゃないのかなって勝手に思うようになって。あまりにも兵庫がやりたすぎて、そんな気持ちでいっぱいだったんです(笑)。

――妄想がふくらんで?

そうなんです。それで「“女兵庫”の可能性はないでしょうか?」ってアピールしていたんですが……。なかったです(笑)。

――過去には蘭兵衛を女性が演じていたこともあるわけですし。いずれ、さらなる再演の時にという可能性はまだ残されていますね(笑)。

ええ、50歳過ぎてからでも、ぜひ“女兵庫”をやりたいですねえ(笑)。

――そして今回この『偽義経冥界歌』で、とオファーが入った時はどう思われましたか。

旗揚げ39周年のサンキュー興行で新感線にまた参加させていただけるなんて、と本当にうれしかったです。それに新感線としては3年ぶりの新作ということでしたし。新感線の場合、ひとつの作品が素晴らしいので、またキャストを変えて再演でやろうという機会も多いじゃないですか。だから新作の舞台に立てるチャンスもなかなかないことのように思いますし。そしてそういう意味ではこの先『偽義経』も、いつか再演を重ねることになるのかもしれないと思うと。

――オリジナルキャストとして。

初演の舞台に立たせていただけるというのは、本当にありがたいことだなと思っています。

――中島かずきさんが、りょうさんにあてて、キャラクターを活かしてあて書きをしてくださるということですものね。

そうなんですよね……! この間の『髑髏城の七人』でも、“Season月”の“下弦の月”で羽野晶紀さんの極楽太夫を客席から観た時に「ああ、極楽太夫だ……!」って、しみじみ思ったんですよ。やっぱり、初演のキャストの方って存在からして役にピッタリで。だからこの先、『偽義経』が再演されることになった時に「そういえばこの役、初演ではりょうがやってたなあ」って思い出していただけるような、何かインパクトを残せるように演じられたらうれしいなと思っています。

――巫女長という役柄は、りょうさんにとても似合いそうだなと思いました。

そうですか? 私としては、洞窟にいたり、周囲に木乃伊(ミイラ)があったりするから、なんだか自分の役は“鬼”にしか思えなかったですけどね(笑)。深く考えていくのはこれからなんですが、台本から見えてくる空気感みたいなものは、確かにかずきさんがあて書きしてくださっただけあって、自分の持っている強いところや、これまでいろいろな役を演じてきた中での得意分野というか、自分のイメージに近い部分が書かれているようにも思えました。特に新感線の作品では、そういう自分のイメージ、人が抱いているキャラクターを思いっきり出していいんだとも思うんですね。ですから第一印象で「ああ、私は鬼なんだな」と思ったということは、それも自分の得意な面なのかもしれないから、そういう視点から役に入ってみるのも面白そうだな、と。自分の武器が出せそうですしね。

――それこそ、兵庫がやりたいとおっしゃっていたということは、もっと身体を動かす役をやりたかったのかなとも思いましたが。

そう! 動きたかったんです。なのでぜひ、今回はもっと動きたいですね! 

――巫女長と言われるとあまり動かないのかなと思いきや、ちゃんと動く場面もどうやら用意されているとか?

そうみたいです。私、数年前にちょっとキックボクシングをやっていたので、台本をいただく前から再び週1回のペースで通い始めていて。そのあと、準備稿ができてきたので読んだら、もしかしたらキックボクシングがぴったりのアクションかも!と思えたので、通う回数を増やそうかと思っているところです。まだ稽古前なので、実際どの程度のアクションになるかはわからないんですけど。いのうえ(ひでのり)さんにどんなことを求められるかわからないし、求められた時にはすぐ動けるようにしておきたいので、とりあえず体力はしっかりつけておくつもりです。

――“花髑髏”で、いのうえさんの演出を初めて受けてみて、いかがでしたか。

いのうえさんが、自ら動いて演出してくださるんですが、その通りにやろうと思ってもなかなか難しくて。最初にその役の感情であったり動きを自分なりに考えておくと、いのうえさんのつけてくださった演出にうまく合わせられないんですね。それで最初に自分が考えていたものを全部忘れてから、改めていのうえさんの演出を見て、そこにのせるようにしていったらできるようになって。でもその方法に気づいたのが、稽古の中盤あたりで遅かったので、今回はそういうことがないように稽古の最初からそのやり方を試してみようと思っているんです。

――いのうえ演出のコツはつかんだ、と?

どうなんでしょうね(笑)。だけど前回よりは、いのうえさんが求めていらっしゃるものをスムーズに形にできるんじゃないか、ぜひそうしたいなと思っています。

――でも、演出を受けるのは2回目になるので。

ええ、その点は初めての時よりはすごく有利な気がしています(笑)。きっと前回よりもたくさん、演出をつけていただけそうな気がしますしね。

――では、りょうさんからお客様へメッセージをいただけますか。

とにかく3年ぶりのいのうえ歌舞伎の新作ということですし、ついこの間まで豊洲の回転する劇場でやっていましたが久しぶりに回転しない劇場でやりますし(笑)。劇団☆新感線にとっては、大阪公演からスタートするというのも、大きな意味があると思います。いのうえさんもコメントでおっしゃっていましたが、回転劇場での演出を経たことで果たしてこの最新作はどんな舞台になるのか、私自身もとても楽しみなんです。きっと、お客様にも楽しんでもらえるのではないかと思います、ぜひ劇場にお越しください。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀