『偽義経冥界歌』には2020年版の東京公演、福岡公演にのみ出演する予定の三宅弘城さん。2019年版で橋本じゅんさん演じる<弁慶>の、ダブルキャストとしての登場となります。劇団☆新感線にはこれで6度目の出演となる、誰もが認める“準劇団員”の三宅さん、じゅんさんと同じく天狗の団扇の柄が入った山伏の衣裳を着けて現れるなり「可愛い! なんでも着こなしはる!!」と旧知のスタッフたちから大好評。
モニター画面でテスト撮影をチェックしていたアートディレクターの東學さんが、衣裳の竹田団吾さんに「ぼんぼりが、ちょっとだけズレてない?」と声をかけると、早速竹田さんたち衣裳スタッフ陣が山伏のトレードマークとも言えそうな丸いフワフワした“梵天”を手で上から押さえたりして、左右の高さを微調整。加えて白い襟の部分も、左右がぴったり同じ幅になるようにミリ単位で整えていきます。
その間、仁王立ちでじっと立っている三宅さんの姿に「カッコイイ! コンパクトだけどめっちゃ強そう!!」と声がかかると、ニコニコしながら「そうかなあ?」。その柔らかい笑顔が、いざ撮影がスタートした途端に一瞬でキリっと引き締まった凛々しい表情に変わります。
東さんから「もっと顎を引いて」と言われ、ぐっと力を入れて顎を引くと今度は「引き過ぎかな?」と言われてしまって、苦笑いする三宅さん。ちょうどいい位置を探って、くるくると顎を回してから角度をちょっとずつ変えていきます。「ハイ、そこ!」と言われ、ピタッと停止。「これ、ええなあ!」と、モニター前の東さんは早速、手応えを感じた様子です。
カメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんが「目ヂカラ、ください」とリクエストすると、さらに目を開いてレンズを睨むようにする三宅さん。モニター周辺のスタッフ陣からは「カァー!」「フォー!!」などなど、不思議な掛け声も聞こえてくると、「ホラホラ、来た!」と東さんのOKサインが出て、撮影は終了。
撮影後、三宅さんにこの日の撮影の感想や、新感線の舞台に出演することに関してなどを伺ってみました。
――ヴィジュアル写真は先に撮ったものの、三宅さんが実際に稽古に参加するのはまだ少し先の話になりますね。
本当に。その頃、生きてるかどうかもわからないですよねえ(笑)。
――この『偽義経~』へのオファーを聞いた時は、どう思われましたか。
それはやっぱり、あの公演を思い出しましたよね。
――あの公演? (降板した橋本じゅんの代役として三宅が出演した)『鋼鉄番長』(2010年)ですか?
それしかないじゃないですか(笑)。
――橋本じゅんさんと、ダブルキャストでと言われたら。
ええ。そうなると、もう直結ですよね。でも、今回はもちろん条件が違いますから。そう考えるとあの時は代役として出ただけでホメられましたけど、今回は否が応でも比較されるでしょうからね。そういう恐怖は、少しありますよ。だって、じゅんさんにはじゅんさんにしかできないキャラであり、面白さがありますから。そこに僕が同じ役で入るとどうなってしまうんだろうと、正直怖いですよ。
――三宅さんには三宅さんにしかできない弁慶が。
いや、そこの自信があまりないんですよね。
――弁慶役を演じる、ということに関してはどう思われましたか。
「えっ、俺が弁慶か!」って思いましたよ。
――じゅんさんも「そうか、弁慶か!と思った」とおっしゃっていました(笑)。じゅんさんもですが、また三宅さんも三宅さんでいわゆる弁慶のイメージとはちょっと違うような。
そうでしょう? 僕、チビじゃないですか。だいたい弁慶というと、実際にそうだったのかどうかは別としても、どうしても大きい人というイメージがあるから。どっちかというと僕は、新感線に出させていただく時は特にちょこまかした役が多いですしね。ちょこまかしているか、うつけの役が圧倒的ですから。むしろ、そうじゃない役柄を演じるのは今回が初めて。一体、どういう風になるんでしょうね。まあ、そのへんはいのうえさんの演出次第ですし、そこには全幅の信頼を寄せているのですべてお任せしようと思っています。
――どういう弁慶になるか、楽しみです。
そうですね。具体的にどう作っていくかは、稽古をやりながらだと思うんですけど。でも2020年版のための稽古はダブルキャストで入る二人、僕と(山本)カナコさんのための稽古になるんでしょうね、おそらく。
――改めて、新感線に出る時の面白さというと。
それはやはり、他の場所ではできないダイナミックさがあるところ。あと、他ではできない殺陣ですね。せっかく新感線に出るからにはたくさん動きたい、という気持ちになるんですよ。たとえばナイロン100℃では逆に、KERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんから動くことを封印されたりしますから。
――今回は特に弁慶役ですから、たくさん動くことになりそうですね。
そうですね。あと、これは観ている側でも感じることだと思いますが、カタルシスがあるところ。
――舞台に立っている時も感じるものですか。
そりゃあ、感じますよ。あと、カーテンコールが終わったあととか、衣裳を脱いでいる時とか、かつらをはずしてる時とか、すごく気持ちがいいんです。
――やりきってスッキリする。スポーツのあとのような?
ああ、まさにそういう気分かもしれません。その両方があるから、新感線は楽しいんです。
――両方?
スポーツのようなやりきった感と、いのうえさんの演出の細かいニュアンスとか、いわゆるお芝居ならではの繊細な部分と。その両方が味わえるというのが大きな楽しみであり、これってとても贅沢なことだとも思います。
――そして今回は本格的な時代劇でもあるわけですが、三宅さんはここのところ映像作品でも時代劇づいていますね。
時代劇は、大好きです。ある意味、コスプレ的な楽しさもありますしね。
――今日の撮影は山伏スタイルでした。
はい。ああいう衣裳は、着たことがなかったです。初めてです。やっぱりあの、山伏ならではの丸いポンポンがいいですよね(笑)。テンションが上がって、なんだか強くなった気持ちになりました。これに錫杖とか、長い武器を持つわけでしょう。僕、長い武器での殺陣はやったことがないので。
――刀を使う殺陣ともまた、全然違うアクションになりそうですね。
はい。だから苦労するかもしれないですけど、ここでまた新たなことに挑めるというのはワクワクします。50歳になってから新しいことができるって、そんなにないじゃないですか。とても、幸せなことだと思いますね。
TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀