劇団☆新感線には『髑髏城の七人』Season風以来、これがなんと5回目の参加となる、誰もが認める“準劇団員”の山内圭哉さん。『偽義経冥界歌』では弁慶とコンビのように共に行動する<常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)>を演じます。ご覧の通り、ヴィジュアルはいわゆる“山伏”スタイル。
この格好でスタジオのフロアに現れた山内さんの姿を見て、スタッフはそれぞれ「めちゃめちゃ似合うね」「それにしても綺麗な顔立ちだこと」「カッコイイ! いつも通り、強そうだね」などと声をかけています。頭頂には黒い兜巾(ときん)が紐で固定されているのですが「それ、取ったら六角形の跡がついているのかな?」「これだと絶対、日焼けはできないね」などなど、こちらにもみなさん興味津々。その兜巾の位置を含め、アートディレクターの東學さんがモニターを見ながら最終チェック。その指示を受け、袖の張り具合の左右のバランスを見たり、ヘアメイクの担当スタッフが目尻のアイシャドーを少し足したりして表情がよりくっきり美しく写るように、細部にわたって調整しています。
さらに東さんが「その“ぼんぼり”(梵天)の位置はここでいいのかな?」と声をかけると、衣裳担当の竹田団吾さんが自ら確認しつつ微妙に修正。襟も丁寧に合わせ直すと、撮影開始です。
カメラマンの渞( さんずいに首=みなもと )忠之さんからの「もうちょい顎、ひきましょうか」「眉間に皺を寄せてみて」など、細かい表情の注文に応えていく山内さん。その眉間に皺を寄せた渋めの表情が「あ、それ、いいじゃん!」「素敵!」と、なかなか好評の様子。すると次は「ちょっとだけ笑ってみて」とのリクエストが入り、照れてしまったのか、ここではなぜか不自然なほどの笑顔に。「笑いすぎ!」と周囲のスタッフたちからツッコまれ「やっぱりいかついのでいこう」と言われて、再びキリリと引き締まった表情になる山内さんに「おお、ええね!」と東さん。渞( さんずいに首=みなもと )さんも力強くOKサインを出して、あっという間に撮影完了です。
撮影が終わった直後の山内さんにも、新感線の舞台に出演することや、共演陣への想いなどを伺いました。
――あの衣裳を着てみての撮影、ご感想はいかがでしたか。
山伏の衣裳を着たのは初めてなんですけど、なんだかしっくりきましたね。まるで、以前に着た事があるような気分でした。それにしても、(東)學さんとご一緒するのは、かなり久しぶりやったんでうれしかったですね。自分のプロデュース公演のチラシのデザインとか、學さんにずっとやってもらっていたんですよ。
――この『偽義経冥界歌』へのオファーを聞いた時は、どう思われましたか。
演目がどうこうではなくて、新感線の場合はこうして定期的に呼んでいただくこと自体に喜びを感じているというか。やっぱり、僕も劇団というものには所属していないですから、役者という仕事を下請けと考えると、何度も同じところから発注が来るというのは本当にありがたいことなんです。特に他のところとちょっと違うのが、関西出身の小劇場の人間にとって新感線は本当にいつも面白くて体力があって「こんなことできんの?」みたいなすごいことをがんがんやらはるようなお兄ちゃん、みたいな存在なので。ガキの頃から観ていた、そういう先輩たちの劇団から誘われたらまず断れないですよ(笑)。しかもこのお話をいただいたのは『髑髏城の七人』の“Season風”がそろそろ動き出すくらいの頃、そんな早い段階でお声がけいただいていたので。お兄ちゃんたちが信頼してくれている!と思うと、これまたじわじわとうれしくなりますね。
――では、そのあとから『偽義経』のあらすじを聞いたわけですね。
ええ。新感線の劇団公演ではなかったんですが、『鉈切り丸』(2013年)という作品も源平時代の話とシェイクスピアの『リチャード三世』を混ぜたようなお話で。新感線は、いわゆる時代劇というものを上手に遊ばはるじゃないですか。僕も、さまざまなジャンル、さまざまな時代の作品を演じてきましたが、なかでもこういう時代劇ってすごく遊びやすいというか、嘘をつきやすいというか。ごっこ遊び的に言うとね。
――コスチュームプレイとしての楽しさもありますし。
そう、それで調子に乗ってはしゃいでもOKなジャンルというか。言えば、その『鉈切り丸』にも僕は出ていたので、学校で習っていた日本史なんかは真面目に勉強していなかったですけど、その時代のことに多少は詳しくなってて。登場人物の関係性や名前なんかも、知らん間に覚えてましたしね。
――山内さんが演じる<常陸坊海尊>というのは、基本的に弁慶と一緒に動く役まわりですね。その弁慶は今回ダブルキャストで、前半は橋本じゅんさん、後半は三宅弘城さんです。
面白いですよねえ! あまり今までそういう経験がないんですよ。同じ演目で相手役が途中で変わるなんて。でもじゅんさんと三宅さん、どちらも良く知っている方ですし、なにしろキャラクターがまったく違うわけですから。二度、楽しめそうです。
――同じ役柄が、果たしてどこまで変わるのか楽しみです。
『髑髏城~』シリーズの時も、自分が出ていない他のシーズンの舞台をできる限り観させていただいたんですが、自分が演じた役も含めて、同じ演目のいろいろな役を違う役者が演じるという面白さを経験しました。今回は同じ演目を演じながら、相手役だけが前半と後半で変わるというのは、どんな感じになんのやろっていう新しい楽しみがありますね。
――そして主人公を演じるのは生田斗真さんです。生田さんと共演することに関してはいかがですか。
ずいぶん前から、自分の出ている舞台をよく観に来てくれていて、一緒に仕事はしたことがないのに知り合いになっていたというか。で、斗真くんからも「何かでご一緒したいです」って言っていただいていたので、ここでやっと一緒にできるなあと思ってうれしかったです。ジャニーズ事務所の方々とは過去何回かご一緒していますけど、本当におののくんですよ。なんでしょうね、幼少の頃から鍛えられている身体能力と、華みたいなものと、仕事に対する真摯な姿勢と。斗真くんとはこれが初共演なので、仕事をする際にはどういうタイプの役者さんなのかは知らないですけど、でもまた違うジャニーズの子とやれる楽しさ、みたいなものもありますし。そう考えると今回、楽しみばっかりです(笑)。
――いいことですね、精神的にも(笑)。
はい。体力的にはキツイでしょうけども。
――今回もまた、たくさん動かされそうですか。
いや、でも“Season風”をやってて良かったです。“風”に出ている時にはホント、見えへん星みたいなものが見えましたからね。
――見えへん星、とは?
死兆星みたいなものが。これを見たら死ぬ、みたいな。
――死の兆候が見える星?
ええ、ええ。だって「俺、死ぬな!」って、何回か思いましたもん。
――そんなにキツかったんですか。
キツかったです。もともと僕はふだんから、それほど身体を動かすほうじゃないんですよ。快楽主義なので。動かさずにすむなら動かしたくないタイプなので。
――じゃ、いまだかつてないくらいに身体を動かされた。
だから、それを一回乗り切った経験があるわけですからね!
――では、あそこまではおそらくキツくはないだろうと?
いやいや、でも油断するととんでもないことになりそうですから、絶対に油断はできないです。せっかく信頼してもらったのに、ケガして足を引っ張ることになったら困るし。ここは前回以上に、気をつけますよ。
TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀