/けむり/ヴィジュアル撮影 レポート 早乙女太一篇

劇団☆新感線には、この『けむりの軍団』でなんと6回目の出演となる、もはや誰もが認める“準劇団員”の早乙女太一さん。今回の飛沢莉左衛門役は剣の腕は確かながらも“口下手”という、ひとひねりある役柄。このキャラクター設定を早乙女さんがどう演じるか、早くも興味津々です。ヴィジュアル撮影用に用意された衣裳は、竹菱の柄が入った麻袴に袖なしの羽織。これが様々な彩度の青色で統一されていて、凛々しさも倍増! 黒髪のロングヘアを後ろで紐でくくるスタイルも、お似合いです。

撮影開始と同時に、早速ブロワーを使って後ろから髪を吹き上げたいということになり、早乙女さんの背後にはヘアメイク担当の宮内さんがスタンバイ。緑と青のフィルムを装着したライティングも、ちょっと風変わりな面白い効果を生み出しそうです。髪が緑のライトに照らされている様子をモニターを通して見てみると、自分の目で見た時よりも妖艶な雰囲気が増幅しているようにも見えます。

アートディレクターの河野真一さんが「刀を抜いて、構えてみて」と声をかけると、「はい!」と答えてスッと刀を構える早乙女さん。続いてカメラマンの相澤心也さんの指示で、抜いた刀を顔の前で光に反射させることに。そこに赤い色も加えたいということで、赤いフィルムの付いたライトも追加で用意されました。「正面の顔のほうが、このキャラクターの不器用さが出ていいかもね」という河野さんの意見に合わせ、しばらく正面を向いた状態でシャッターが多く切られていきます。

「表情は基本、クールで。だんだん口元に表情をつけてくれる? まずは怒りを表現してみて」と言われた早乙女さん。すぐさま眉間に皺を入れ、歯を食いしばったかと思うと、レンズに向かって鋭い目線を送ります。「よし! すげー、カッコイイ!」と、シャッターを押しながらもなんだかとてもうれしそうな相澤さん。「その角度いい! 風、もっとください!!」という相澤さんの注文には、早乙女さんの背後からブロワーが2台がかりで風を噴射。そのコンビネーションがこれまた絶妙で、いい塩梅に黒髪が空中に舞い、ドラマティックなショットがどんどん取れている模様です。

セットチェンジの合間には、屈伸運動をしてみたり、刀を振り回してみたり、肩にかついだりする早乙女さん。モニターを確認する際には周囲のスタッフと楽しげに談笑したりもしていて、さすが準劇団員、すっかりリラックスした雰囲気が漂っています。

さらに、この場にはいない須賀健太さんと戦っているという仮の設定で、スタッフが構える手前の刀と早乙女さんの刀をクロスさせながらのポーズを撮ることに。刀に当たる光の反射具合、それが顔にかかる位置など、いろいろと試行錯誤をしながら丁寧に微調整を繰り返します。河野さんが自ら刀を持ち、須賀さん役として刀を重ねて細かく指示をしていると、スタッフからは「戦うデザイナーだね!」との声が。フフッと微笑む早乙女さんですが、河野さんから「じゃ、次は般若のような顔で」とのリクエストが入ると、次の瞬間にはギラッと強い目力を発揮、口を開いた迫力ある表情に豹変。「いいじゃん、いいじゃん!」「すごいね、めちゃめちゃカッコイイぜ!!」と、スタッフたちからも称賛の反応が飛び交います。

早乙女さんにも撮影終了後、今回の作品に対する印象や意気込みなどを語っていただきました。

――新感線には6回目の出演になるわけですが、今回の『けむりの軍団』への出演のお話を聞いた時は、どう思われましたか。

まず古田(新太)さんと共演できるということを聞き、そのあとで脚本は倉持(裕)さんだと知ったんですが、僕は(中島)かずきさん以外の脚本で新感線に出るのはこれが初めてなんですよね。きっと、いつも味わっている感じとはちょっと違う新感線になるんじゃないかな、と思いました。でもとにかく、やっと古田さんと舞台で初めて共演できるので。僕にとって今回はもう、それがすべてです(笑)。

――以前から、ぜひご一緒したいんだとおっしゃっていましたよね。

はい。『髑髏城の七人』Season月の公演中の時だったかな、一緒に飲んだ時にも古田さんに「ちょっともう、いつ死んじゃうかわからないんだから(笑)、早めにお願いしますよ!」って頼んではいたんです。だってそろそろ本当に急がないと、古田さんが動けなくなっちゃってからではイヤだから、動けるうちに戦わせてください!と(笑)。でも、それがまさかこんなにすぐ叶うとは思っていなかったですけどね。

――そして今回は、これまで新感線で演じて来られたキャラクターとは一味違う印象の役柄のようですが、台本を読まれてどんな印象を持たれましたか。

一幕は、比較的ラクそうだなと思いました(笑)。新感線の台本を読む時は他の舞台のものとは違って、いつキツい場面が出てくるかを気にしながら読むので、すごくドキドキするんですよ。でも今回、一幕は意外と僕自身が戦う場面は少ないみたいだったので。キャラクター的には、それほどひねくれていないというか。今までは新感線に出る時って謎な部分が多い人物だったりしていたんですが、今回はまっすぐな人のようだということはすごく感じましたね。

――倉持さんの脚本ならではの、会話の妙もありそうですね。

そうですね。そういう意味では、うまくできなくていろいろ怒られそうだな、とも思いました。間が難しそうな気もするので、そこに関してもいっぱい教えてもらおうと思っています。

――池田成志さんと『髑髏城の七人』Season鳥に続いて再び共演できることも、楽しみのひとつかと思いますが。

はい、それも今回ものすごく大きいポイントです。もともと成志さんも古田さんも大好きだったし。好きな人が大勢いるのは、やっぱりうれしいですね。『鳥髑髏』の時もいろいろなことを教えてもらったり、しょっちゅう一緒に遊んでもらったりしていたので。

――今回は共演者に『髑髏城~』経験者が多いんですよね。須賀健太さんとも共演されていますし。

はい、『月髑髏』で同じチームでした。でも、それに関しては別にどうでもいいです(笑)。

――それはつまり、ふだんから仲がいいということですね(笑)。

ケンちゃんは、今回もまたちょっといじめてやろうと思っているので。いつも、ホントうるさいんですよ(笑)。

――『花髑髏』に出ていた清野菜名さんとは。

ご一緒するのは、今回が初めてです。とにかく動けて、エネルギーがすごい方だなと。『髑髏城~』はもちろん、映像作品でも拝見していますが、光をパーン!と放っているようなエネルギッシュな雰囲気があって。声もいいし、とてもパワーを感じます。僕がやってきたアクションとは毛色が違って、清野さんはボディアクションがすごいですよね、僕は足がまったく上にあがらないほうなので(笑)。まあ、今回はそっち系のアクションで戦うことはなさそうだけど、機会があればいろいろ教えてもらいたいです。

――これだけ何度も参加されていて、新感線の劇団としての魅力はどう映っていますか。

新感線の舞台といっても、作品によって毎回違うっちゃ違うんです。新しく参加する人がいたりすると、雰囲気が結構変わりますからね。特に、前回の『月髑髏』の時は初めて参加する方が多かったから、僕としては全然、新感線の舞台に出ている感覚ではなかったし。だけど、むしろ僕は古田さんが出ていない作品にしか参加していなかったから、今回ようやく新感線の軸である公演に参加できるんだという思いもあります。

――古田さんに感じている、役者としての魅力はどういう部分ですか。

そんな、おそれ多くて一言では言えないですけど。とにかく、殺陣の見せ方がすごくカッコイイ。今回やっと一緒に殺陣ができるのが本当にうれしいんですけど、そもそも僕、古田さんの殺陣の見せ方のマネをしていましたから。あの柔らかさと、力強さと、抜き加減。そして決めるところは決める、というところがカッコイイんです。それは舞台でも映像でもそうで、僕もずいぶん勉強させてもらっていました。

――では今回、直接戦えることで、また新たに教わることがあるかもしれないですね。

いや、今回はぜひボコボコにしたいなと思っているんですよ(笑)。

――ボコボコにしたいんですか?(笑)

今まで教えてもらった蓄積がこっちにはいっぱいあるから、それをすべてぶつける覚悟です。古田さんの周囲を僕が必死で動きながら、ボコボコにします(笑)。

――その古田さんが芸能生活35周年だそうなので、お祝いコメントをいただけますか。

35周年、おめでとうございます。僕が生まれる前からやられていたのかと思うと、感慨深いです(笑)。僕は人生で初めて感動した舞台が新感線でした。その最初に感動をもらった新感線の舞台で、今回やっと古田さんと共演ができることを、ものすごくうれしく思っております。これからも、元気でいてください!

――39興行にからめて、あなたの“サンキュー”を教えてください。

今回、ホントこればっかりになっちゃうんですが(笑)、古田さんにサンキューです。だって僕、もしかしたら一生共演はないのかな、嫌われてるのかなと思っていたくらいだったので。まさか共演NGなのかな、とまで思ったりしていましたからね(笑)。

――では、お客様へもメッセージをいただけますか。

やっと、やっとです。僕は17歳で初めて新感線に出させていただいて、それから10年が経ち、今回ようやく古田さんと同じ作品に出られることになりました。存分に戦いたいなと思いますし、たぶん今までとはまた違う経験ができそうですし、とにかくがんばります! ぜひ観に来てください、よろしくお願いします。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

/けむり/ヴィジュアル撮影 レポート 古田新太篇

劇団☆新感線が2019年後半に向けて感謝の気持ちたっぷりにお贈りする“39(サンキュー)興行”の夏秋公演、『けむりの軍団』。チラシやパンフレット用のヴィジュアル写真の撮影は春頃から早々に行われておりました! ここではその様子をひとりずつ、当日に敢行したミニ・インタビューも含め、レポートしていきます。まずは主人公、真中十兵衛を演じる古田新太さん篇からスタート!

 メイクや着付けを終えてスタジオに現れるやいなや、アートディレクターの河野真一さんから、今回のヴィジュアルの狙いやどんな表情をしてもらいたいかなどの説明を聞く古田さん。改めてその周囲をよく見ると照明用のライトには事前にピンクや青や黄色などのフィルムが装着されており、どうやらこの仕掛けでカラフルかつ陰影の濃い写真が撮れる模様。撮影を行う今回のカメラマンは、相澤心也さんです。

もみあげが印象的で、くせ毛をワイルドに後ろでくくった、十兵衛のヘアスタイル。ヘアメイク担当は宮内宏明さんで、今回もヘアメイクの微調整だけでなく、フロアではブロワーを駆使して絶妙な“風”効果を生み出す係としても活躍されています。衣裳デザイナーは、新感線には『髑髏城の七人』 Season 風 以来の参加となる、前田文子さん。衣裳スタッフによると、今回の古田さんの衣裳は袖なしの長羽織をメインに、ぼろぼろに加工してムラ染めにした布をパッチワークするなど、とても手間がかかったものだとか。マフラー風にぐるっと首元に巻いた布にしろ、腰で縛った太い縄紐にしろ、早くも「雰囲気抜群!」と大好評。

小道具スタッフが用意した刀を腰に差すと、いよいよ撮影開始。早速、木箱に足を載せてポーズをとる古田さんを見たスタッフ陣からは「さすがの迫力!」「カッコイイ!!」との歓声が。さらに河野さんからの注文で、長い楊枝をくわえることになると「シブいねえ~」との声もかかります。

床にあぐらをかいて座るパターンでは、腰に差した刀はいったんはずして立てて持つ形にしたり、足を崩して頬杖をついたり、さまざまなバリエーションでポーズをとっていきます。アップになるため、手や足の汚しメイクをもっと追加することになり、宮内さんとメイクスタッフたちが古田さんを取り囲んで、同時進行で細かいところにまで丁寧かつスピーディーに、見事に汚していきます。

相澤さんから「目線のバリエーションをいくつかください」と言われた古田さんは、苦み走った表情から、ギョロっと目をむいたり、逆に薄目にしたり。それを自らもググっと前に乗り出すような姿勢になってシャッターを切っていく相澤さん。「いいですねえ~」といかにも満足そうな笑顔を見せています。そのレンズには写らない位置をキープしながら、ブロワーを持ったスタッフは背後から寝っ転がった状態で古田さんの後ろ髪を舞い上げています。これがなかなか難しい様子で、シャッター音に合わせてタイミングを見計らいながら風を操っていきます。

河野さんから「にこやかというより豪快にウハハハ!と笑ってみて」と言われた古田さん。あえて声は出さずに「ガハハハ!」という表情を作ってみせると、河野さんと相澤さんは声を揃えて「すげー、カッコイイ!」と叫んでOKサインを交わしています。「なんだか意外な爽やかさもあるんだよねえ」との声には、古田さんもニヤリと余裕の表情。

このあとも刀を抜いて力強く構えたり、それを実際に振ったりと、動きのある撮影なども行い、撮影は順調に終了。一息ついたところで、古田さんに今回の作品への想いを伺ってみました。

――今回の『けむりの軍団』の詳細を聞いた時の印象は、いかがでしたか。

まず、いやな予感がしましたね。“39興行”って言われるとスペシャルな感じがするから、またいのうえさんが張り切っちゃうんじゃないかとか、倉持(裕)君が脚本を書くとなるとオイラの負担がデカくなるんじゃないかという要素がありますし。『乱鶯』の時、倉持君が調子に乗って「だってそういう古田さんが見たいんだもん」と言って長台詞をいっぱい書いてきて、ものすごく長い立ち回りもさせられた苦い思い出があるので(笑)。

――また、そういう流れになるのかと?

そんな気もしますが……、いや、今回は強気に出て短い芝居を目指そうと思っています。稽古の段階でいのうえさんに「このセリフはいらないんじゃないか、この場面はいらないんじゃないか」と攻めてみるつもりです。出番もセリフも少なきゃ少ないほうが、身体のためにはいいんですから!。稽古時間も、公演日数も、上演時間も、すべてが長いというのはどうにかせんと、50歳オーバーの劇団員は死んでしまいますよ。公演日数は長くても仕方ないとして、上演時間が短くて怒る人はいませんから。スタッフ、お客さん、キャスト、劇場の人、すべてが平和な気持ちで帰れますからね。

――では、古田さんとしてはそこを目指して。

目指したいと思いますね。だけどきっといのうえさんは「倉持の会話劇が面白いから、短くするのはもったいない」って言うんだろうなあ。

――台本を読んでみての感想は。

既に長い!(笑) これに立ち回りが入るのかと思うとゾッとします。どうせ(早乙女)太一とか(須賀)健太は喜んでいるんでしょうけど。喜んでいるのはおまえらだけだからな、おじさんたちは全然喜んでないからねと言って、阻止してやりますよ。

――その太一さんとは、舞台初共演ですね。

そうなんです。この間、テレビ局の楽屋に太一が顔を出しに来てくれて「夏秋公演、よろしくお願いします」って言ってきたから「イヤです」と即答しておきました。「いやいやいや、がんばりましょうよ」って言っていたけど、太一ががんばればいいんです、オイラはがんばらない。

――立ち回りもありそうですけど。

絶対、あるに決まってるよね。あんなに若くてキレッキレの奴を相手にするなら、こっちはピストルを使わせてほしいくらいですよ(笑)。

――須賀さんとも、初共演ですよね。

『ハイキュー!』の舞台を観に行ったり、ごはんに連れて行ったりしたことはあるけど、共演は初。健太と太一と清野(菜名)、動ける若い人たちがいるんだから、彼らが暴れまくればいいんですよ。それを誇らしく見守る役をやりたいです、オイラとしては。

――そんなことをおっしゃいますが、倉持さんの書かれた台本、すごく面白いですよね。

確かに面白いけど、とにかく長い!(笑) 長さ以外に不満はまったくないんですよ、倉持君が本を書いてくれることも、太一や清野や健太と共演できることもうれしいし、何の文句もない。ただ、短い芝居がやりたいんです。短くても濃密であれば、お客さんはきっと楽しんでくれるはずですから。濃密なものを3時間半も4時間も見せられてごらんなさい、みんな胸やけしちゃうよ!

――古田さんが演じる真中十兵衛は、現時点ではどんな役だと思われていますか。

『弥次さん喜多さん』の弥次さんみたいな役。喜多さんが成志さんでね。だけど、この二人の会話の場面なんて長々といらないんだよ。もう最近じゃ、二人で飲みに行くこともなくなってきたんだから。なんせ30年も付き合ってきたんだから、もはやしゃべることももうないしね。

――でも、二人の場面はガッツリありそうじゃないですか。

そうなの。だから、そこからどんどん切っていこうと思ってる。本読みの段階から、カット候補を提案しておこうかなあ。ファンのみなさんだって、こんなおじさん二人の会話なんてそんなに聞きたくないでしょ。たとえ多少面白かったとしてもね(笑)。

――では今回の稽古、本番で楽しみにしていることは。

楽しみは、清野と飲みに行けることくらいかなあ。まあ、太一と健太もたぶん付き合ってくれるだろうけど。そのためにも、稽古ですべての体力を使い果たすのではなく、余力を残しておきたいわけですよ。

――今回は39興行でもありますが、古田さんご本人も芸能活動35周年の節目にあたる年でもあるそうですね。

35年がどうということより、毎回のように、次を代表作にしようと思ってがんばってきたわけなんですけれども。なので、今回も面白くするためにがんばって努力はしますよ、お客さんに喜んでもらってナンボですから。それはもう35年間ずっと同じように、お客さんが喜んでくれたらいいなとか、逆にお客さんが怒ったらいいのになっていう想いを込めてやっていますから。今回も、賛否両論になるくらいの作品にしたいなと思っております。

――賛否両論あったほうがいい。

そりゃ、そうです。万人受けなんて、まずありえない。全員が面白いものがいいなんていうのは、大間違いですからね。

――そして39興行にからめて、あなたの“サンキュー”を教えてください。

サンキューと言えば、出産休暇のことじゃないですかね。産休。出産休暇をした人達がやる興行。

――何かに感謝をするとしたら?

カミに感謝ですかね。……紙がないとお尻が拭けないから……。

――もう真面目に答える気がなさそうですね(笑)。では最後に、お客様へメッセージをいただけますか。

興味を持って見てくださっているみなさま、劇団☆新感線は末端の人間に至るまで、お客様に楽しんでもらおうという努力だけは一生懸命致します。最後の最後まで悪あがきをしながらでも、とにかく面白いものを今回も作っていきます。とりあえず、わたくし古田が出ているお芝居には絶対にハズレはありませんので、ぜひとも観に来てください。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

/けむり/『けむりの軍団』製作発表記者会見レポート

劇団☆新感線の、元号が変わってからの記念すべき1本目の作品となるのは、39(サンキュー)興行夏秋公演“いのうえ歌舞伎≪亞≫alternative”『けむりの軍団』! その製作発表記者会見が5月中旬、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ東京で行われ、役柄、登場人物の人間関係、物語のあらすじなどが情報解禁になりました。脚本を担当した倉持裕と演出を手がけるいのうえひでのり、そして主演の古田新太らメインキャスト7名が登壇した、この会見の模様をここでレポートさせていただきます!

まず、作・倉持、演出・いのうえは終始ニコニコと笑顔を見せつつ、以下のように発言。

倉持裕<作>

「なにより、劇団☆新感線からまた執筆依頼をいただけたことを本当にうれしく思っております。今回いのうえさんからいただいたお題は黒澤明監督の映画『隠し砦の三悪人』と太宰治の『走れメロス』を合わせた話で何かできないか、ということでした。そこで古田さんがお姫様を守って逃げる侍の役で、人質にとられる親友役は成志さんかなとも思ったのですが、そうするとラストに再会する時にしかお二人の絡みの場面がなくなってしまう、それじゃもったいないと思いましたので、古田さんと成志さんが二人してお姫様を守るという形にしました。この執筆の最中にたまたま古田さんとお会いする機会があったんですが、その際に「激しいアクションは若い俳優にまかせなさい」と薦められたので、言われたとおりに激しいアクションは早乙女さん、清野さん、須賀さんに担当していただくようにしました。さらに主人公たちと対峙する大ボスにはそれなりの重みが必要ですから、新感線の大御所、重鎮であります高田聖子さんと粟根まことさんをイメージしてキャラクターを書きました。前回の『乱鶯』は結構シリアスな話だったので、今回はもう少し軽めで笑えるものにしようと心がけました。それと前回は古田さんを本当に舞台に出ずっぱりにしてしまったせいで、半ば本気で「殺すぞ。一服する暇もねえじゃねえか」と叱られまして(笑)。今回は必ず、古田さんの出番が終わったあとは一服できるくらいのインターバルを置くよう、細心の注意を払いました(笑)」

いのうえひでのり<演出>

「いのうえ歌舞伎というのは元々、(劇団座付作家の)中島かずきくんが書く、どちらかというと少年漫画的な、ファンタジーだったり、SFだったり、伝奇時代劇をベースにしたような、アツい、男の子のお芝居が多く、それを僕たちは30年近くやってきたわけですが。メインの配役に若い方をゲストに呼んでやる場合はいざ知らず、劇団員の古田くんや橋本じゅんさん、高田聖子さんあたりをメインにして話を運ぼうと思うと、なにぶん高齢化が劇団☆新感線も進んでおりまして(笑)。いささかその、いのうえ歌舞伎の王道、もともと持っていたスタイルのものをやるのがキツくなってきたんです。そういうわけで今回のように劇団員メインで、劇団外の作家さんにお願いしてやる場合は別の路線として、今の劇団員の年相応のいのうえ歌舞伎を作ろうというのをコンセプトとして、ここではできるだけ時代劇をちゃんとやるというのが、この“いのうえ歌舞伎≪亞≫alternative(オルタナティブ)”ということになります。今、チャンバラを使ったお芝居も多くなりましたが、ブーツを履き、髪の色が赤だったり金だったりする時代劇がほとんどになってきていますから、あえてここはもはや映像でもなかなか見られなくなってきた、本格的な時代劇をやりたいという気持ちもあります。その上で、さっき倉持くんの話にもありましたようにクロサワ映画のオマージュでもあるので、骨太な人間ドラマみたいなものを僕らなりに描きたいなとも思っています。キャストも今回は客演の方も全員、新感線経験者ばかりです。丁々発止の劇団員との軽妙なやりとりに、太一くんや健太くん、若い人たちのチャンバラもしっかりありますので、そのあたりが面白いシーンになればなと思っています」

続いてキャスト陣は、この会見のMC・中井美穂さんとのやりとりも含めつつ、各自の想いを次のように語った。(<>内は役名)

古田新太<真中十兵衛>

「(今回の舞台の話を聞いた時は)劇団員なので「古田、今度の作品はこれだからね」と言われたので、単純に「ハイ」と言いました。(自身も劇団に入って35周年ということについては)いまだにやりたいお芝居に手が届いていないので35年たっちゃった、ということになるのですけれども。いつも「代表作は、次回作です」と言っているのですが(笑)、今回もこれが自分の代表作になればいいなと思っております。太一くんと健太くんとは付き合いは長いですが、舞台共演はこれが初めてなので、彼らに改めて舞台にはコンプライアンスはないんだということを教えていきたいですね(笑)」

早乙女太一<飛沢莉左衛門>

「今回の僕の役は“動き”担当です、よろしくお願いします(笑)。(6度目の新感線出演にして、初めて古田と舞台共演することについては)僕にとっては念願の、そして待望の舞台共演です。いつかは古田さんと刀を合わせたいとずっと思っていたんです。17歳の頃に初めて新感線に出してもらってから、もう10年が経ちます。それでやっと古田さんとご一緒できることになったので、なによりもうれしいです。でも古田さんももう初老の域に入ってきていますから、ちょうど今が倒しどきなんじゃないかと(笑)。テクニックでは絶対勝てませんが、なんとかこの若い体力でついていきたいです」

清野菜名<紗々姫>

「私の役は、おてんばな“動き”担当です(笑)。私は新感線に出させていただくのは今回が2度目ですが、前回(『髑髏城の七人』Season花)に続きこうして、しかも“39興行”という記念すべき作品に出演できることは本当に光栄に思っています。いのうえさんは今回は本格的な時代劇だとおっしゃっていましたが、私は本格的な時代劇は初めてでちょっと苦戦しそうなので、みなさんから学ばせていただこうと思っております。前回出演した時に、この場所は楽しんだもの勝ちだという印象を持ちましたので、今回もとにかく楽しんでいきたいなと思っています」

須賀健太<雨森源七>

「僕はいのうえさんからの“千本ノック”担当でやらせていただきたいと思います(笑)。もともと僕が、舞台をやりたいと思うようになったきっかけが劇団☆新感線さんの作品だったんです。それで前回初めて出させていただいた時(『髑髏城の七人』Season月)もうれしかったのですが、今回は劇団員のみなさんがほぼオールメンバーになるということで、より、僕が昔から観ていた新感線に出られるような気がしてすごく幸せです。とはいえ、(千本ノックを受けることになりそうな)稽古が今から心配な気持ちもあります(笑)」

高田聖子<嵐蔵院>

「劇団員的にも役柄的にも重鎮です(笑)。私の場合は主に“嫌われ者”担当だと思います。(今回、本格的な時代劇だということは)意外でした。サンキュー公演という響きが、すごく軽くて明るい感じがしたので、てっきりネタものをやるんだと思っていたんですけれども。でも脚本を読ませていただいたらすごく面白かったですし、ちょっと落語的な楽しさがあるようにも感じました。確かに劇団的にはかなり老成してきていますけど、そんなわれわれなりのネタものの形がもしかしたら、今回のような“オルタナティブ”になるのかもしれないな、と今は思っています」

粟根まこと<残照>

「高田さんに続き、劇団員の重鎮その2です。私の立場は“へりくつ”担当です。すべて、へりくつでけむに巻こうと思っています。(倉持脚本の)前作『乱鶯』の時は一幕前半ですぐに死んでしまって、その後はずっと古田くんとしか会話ができない、古田くんにしか見えない幽霊の役だったんです。でも今回は他のみなさんともちゃんと敵になったり味方になったりしながら、たくさん絡めそうなのでその点もとても楽しみです」

池田成志<美山輝親>

「(ズル賢く口の巧い浪人役と言われ)おそらくまた僕は嘘ばかり言う役になるんでしょうけど、意外にこれが新感線では初めてくらいの善良な、ちょっぴりいい人の役でもあって。少しばかり緊張しながら稽古を迎えるかと思います。今回、台本の厚さが電話帳くらいあるんですよ。でも読み始めると非常に面白くてですね。カットするところを考えたかったのに、きっちり入り組んで書かれているので、ここをカットするとこの伏線が飛ぶとか、この人がこういう行動ができなくなるという悪辣な台本にもなっていて(笑)。これはテンポを上げないと面白くないし、でもそうすると体力を消費するわけで、もう今から戦々恐々としていますよ」

そして記者からの質疑応答コーナーでは「古田さんが演じる十兵衛は策士で周りを翻弄し巻き込んでいく役だとのことで、みなさんご自身が周りの誰かを翻弄したり、逆に翻弄されたことがあればそのエピソードを教えてください」という質問に各自が答えることに。

中でもまず会場を盛り上げたのは古田の

「その時々、ヒドく愛した女かな……(笑)」

というフレーズ。

さらに早乙女からは

「『髑髏城の七人』Season月で、本番中に健太が自分のセリフじゃないところで、急にセリフを言い始めたことがあって。そこまでの周りのセリフを聞いていなかったんでしょうね、みんなの後ろで目立とうとしてちょこちょこ何かやっていて。あれは最近起きた中で一番翻弄された時間でした」

と本番中ハプニングの暴露があり、それを受けて須賀が

「いや、後ろでちょこまかしていたのはそういうお芝居だったんです! そうしたら舞台上で間があってすごく静かになっていたので、自分の番だと思いこんでしまって。舞台にいるみなさんが全員お客さんみたいな顔で俺の顔を見ていたので、その場ですぐ「すいません!」と言いました(笑)。逆に僕も、ふだんから早乙女太一さんに翻弄されているんですよ。よく誘っていただいてごはんをご一緒するんですが、僕しか呼ばれていないもんだと思って喜んで行くと柄本時生くんがいて、あ、俺は二番目なんだなと(笑)。そうやって僕だって翻弄されているんです」

と、二人の仲の良さが伝わるコメントが語られました。

さらに池田は会場を騒然とさせた、昔の経験談をここで披露。

「僕がたまたま田舎に帰省した時、留守番電話のメッセージを聞こうと、公衆電話から自宅に電話をしたんです。昔はプッシュ回線でピポパと押すと用件が聞けましたよね。すると渡辺いっけいがずっと下ネタをしゃべっていまして。テープが終わるまで延々入っていたので私も怒りまして、渡辺いっけいとは一時絶交していたんです。それから20年以上経って、その話を古田くんにしましたらニヤッとしたんですね。実は古田くんの、いっけいさんの声マネだったんです。私といっけいさんは同い年で仲が良かったのに、その友情を壊し、その後もずっと俺に何も告白しないという。非常に根が深い翻弄をされた記憶がございます。ということで、みなさんもあまり古田くんの言うことは信用しないでください」

と言うと、古田が早速

「もしもし、なるし? わたなべでーす」

と、その声マネを再現。一同爆笑のうちに、会見は終了となった。

少しずつではありますが謎が見えてきたような、でもまだまだ謎だらけのような……? とはいえ、クセのある登場人物だらけの、笑いとアクション盛りだくさんの舞台になることは間違いありません! いのうえ歌舞伎≪亞≫alternative『けむりの軍団』、7/15(月・祝)の東京公演初日開幕をどうぞお楽しみに!!

TEXT:田中里津子 撮影:岩田えり

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