劇団☆新感線の、元号が変わってからの記念すべき1本目の作品となるのは、39(サンキュー)興行夏秋公演“いのうえ歌舞伎≪亞≫alternative”『けむりの軍団』! その製作発表記者会見が5月中旬、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ東京で行われ、役柄、登場人物の人間関係、物語のあらすじなどが情報解禁になりました。脚本を担当した倉持裕と演出を手がけるいのうえひでのり、そして主演の古田新太らメインキャスト7名が登壇した、この会見の模様をここでレポートさせていただきます!
まず、作・倉持、演出・いのうえは終始ニコニコと笑顔を見せつつ、以下のように発言。
倉持裕<作>
「なにより、劇団☆新感線からまた執筆依頼をいただけたことを本当にうれしく思っております。今回いのうえさんからいただいたお題は黒澤明監督の映画『隠し砦の三悪人』と太宰治の『走れメロス』を合わせた話で何かできないか、ということでした。そこで古田さんがお姫様を守って逃げる侍の役で、人質にとられる親友役は成志さんかなとも思ったのですが、そうするとラストに再会する時にしかお二人の絡みの場面がなくなってしまう、それじゃもったいないと思いましたので、古田さんと成志さんが二人してお姫様を守るという形にしました。この執筆の最中にたまたま古田さんとお会いする機会があったんですが、その際に「激しいアクションは若い俳優にまかせなさい」と薦められたので、言われたとおりに激しいアクションは早乙女さん、清野さん、須賀さんに担当していただくようにしました。さらに主人公たちと対峙する大ボスにはそれなりの重みが必要ですから、新感線の大御所、重鎮であります高田聖子さんと粟根まことさんをイメージしてキャラクターを書きました。前回の『乱鶯』は結構シリアスな話だったので、今回はもう少し軽めで笑えるものにしようと心がけました。それと前回は古田さんを本当に舞台に出ずっぱりにしてしまったせいで、半ば本気で「殺すぞ。一服する暇もねえじゃねえか」と叱られまして(笑)。今回は必ず、古田さんの出番が終わったあとは一服できるくらいのインターバルを置くよう、細心の注意を払いました(笑)」
いのうえひでのり<演出>
「いのうえ歌舞伎というのは元々、(劇団座付作家の)中島かずきくんが書く、どちらかというと少年漫画的な、ファンタジーだったり、SFだったり、伝奇時代劇をベースにしたような、アツい、男の子のお芝居が多く、それを僕たちは30年近くやってきたわけですが。メインの配役に若い方をゲストに呼んでやる場合はいざ知らず、劇団員の古田くんや橋本じゅんさん、高田聖子さんあたりをメインにして話を運ぼうと思うと、なにぶん高齢化が劇団☆新感線も進んでおりまして(笑)。いささかその、いのうえ歌舞伎の王道、もともと持っていたスタイルのものをやるのがキツくなってきたんです。そういうわけで今回のように劇団員メインで、劇団外の作家さんにお願いしてやる場合は別の路線として、今の劇団員の年相応のいのうえ歌舞伎を作ろうというのをコンセプトとして、ここではできるだけ時代劇をちゃんとやるというのが、この“いのうえ歌舞伎≪亞≫alternative(オルタナティブ)”ということになります。今、チャンバラを使ったお芝居も多くなりましたが、ブーツを履き、髪の色が赤だったり金だったりする時代劇がほとんどになってきていますから、あえてここはもはや映像でもなかなか見られなくなってきた、本格的な時代劇をやりたいという気持ちもあります。その上で、さっき倉持くんの話にもありましたようにクロサワ映画のオマージュでもあるので、骨太な人間ドラマみたいなものを僕らなりに描きたいなとも思っています。キャストも今回は客演の方も全員、新感線経験者ばかりです。丁々発止の劇団員との軽妙なやりとりに、太一くんや健太くん、若い人たちのチャンバラもしっかりありますので、そのあたりが面白いシーンになればなと思っています」
続いてキャスト陣は、この会見のMC・中井美穂さんとのやりとりも含めつつ、各自の想いを次のように語った。(<>内は役名)
古田新太<真中十兵衛>
「(今回の舞台の話を聞いた時は)劇団員なので「古田、今度の作品はこれだからね」と言われたので、単純に「ハイ」と言いました。(自身も劇団に入って35周年ということについては)いまだにやりたいお芝居に手が届いていないので35年たっちゃった、ということになるのですけれども。いつも「代表作は、次回作です」と言っているのですが(笑)、今回もこれが自分の代表作になればいいなと思っております。太一くんと健太くんとは付き合いは長いですが、舞台共演はこれが初めてなので、彼らに改めて舞台にはコンプライアンスはないんだということを教えていきたいですね(笑)」
早乙女太一<飛沢莉左衛門>
「今回の僕の役は“動き”担当です、よろしくお願いします(笑)。(6度目の新感線出演にして、初めて古田と舞台共演することについては)僕にとっては念願の、そして待望の舞台共演です。いつかは古田さんと刀を合わせたいとずっと思っていたんです。17歳の頃に初めて新感線に出してもらってから、もう10年が経ちます。それでやっと古田さんとご一緒できることになったので、なによりもうれしいです。でも古田さんももう初老の域に入ってきていますから、ちょうど今が倒しどきなんじゃないかと(笑)。テクニックでは絶対勝てませんが、なんとかこの若い体力でついていきたいです」
清野菜名<紗々姫>
「私の役は、おてんばな“動き”担当です(笑)。私は新感線に出させていただくのは今回が2度目ですが、前回(『髑髏城の七人』Season花)に続きこうして、しかも“39興行”という記念すべき作品に出演できることは本当に光栄に思っています。いのうえさんは今回は本格的な時代劇だとおっしゃっていましたが、私は本格的な時代劇は初めてでちょっと苦戦しそうなので、みなさんから学ばせていただこうと思っております。前回出演した時に、この場所は楽しんだもの勝ちだという印象を持ちましたので、今回もとにかく楽しんでいきたいなと思っています」
須賀健太<雨森源七>
「僕はいのうえさんからの“千本ノック”担当でやらせていただきたいと思います(笑)。もともと僕が、舞台をやりたいと思うようになったきっかけが劇団☆新感線さんの作品だったんです。それで前回初めて出させていただいた時(『髑髏城の七人』Season月)もうれしかったのですが、今回は劇団員のみなさんがほぼオールメンバーになるということで、より、僕が昔から観ていた新感線に出られるような気がしてすごく幸せです。とはいえ、(千本ノックを受けることになりそうな)稽古が今から心配な気持ちもあります(笑)」
高田聖子<嵐蔵院>
「劇団員的にも役柄的にも重鎮です(笑)。私の場合は主に“嫌われ者”担当だと思います。(今回、本格的な時代劇だということは)意外でした。サンキュー公演という響きが、すごく軽くて明るい感じがしたので、てっきりネタものをやるんだと思っていたんですけれども。でも脚本を読ませていただいたらすごく面白かったですし、ちょっと落語的な楽しさがあるようにも感じました。確かに劇団的にはかなり老成してきていますけど、そんなわれわれなりのネタものの形がもしかしたら、今回のような“オルタナティブ”になるのかもしれないな、と今は思っています」
粟根まこと<残照>
「高田さんに続き、劇団員の重鎮その2です。私の立場は“へりくつ”担当です。すべて、へりくつでけむに巻こうと思っています。(倉持脚本の)前作『乱鶯』の時は一幕前半ですぐに死んでしまって、その後はずっと古田くんとしか会話ができない、古田くんにしか見えない幽霊の役だったんです。でも今回は他のみなさんともちゃんと敵になったり味方になったりしながら、たくさん絡めそうなのでその点もとても楽しみです」
池田成志<美山輝親>
「(ズル賢く口の巧い浪人役と言われ)おそらくまた僕は嘘ばかり言う役になるんでしょうけど、意外にこれが新感線では初めてくらいの善良な、ちょっぴりいい人の役でもあって。少しばかり緊張しながら稽古を迎えるかと思います。今回、台本の厚さが電話帳くらいあるんですよ。でも読み始めると非常に面白くてですね。カットするところを考えたかったのに、きっちり入り組んで書かれているので、ここをカットするとこの伏線が飛ぶとか、この人がこういう行動ができなくなるという悪辣な台本にもなっていて(笑)。これはテンポを上げないと面白くないし、でもそうすると体力を消費するわけで、もう今から戦々恐々としていますよ」
そして記者からの質疑応答コーナーでは「古田さんが演じる十兵衛は策士で周りを翻弄し巻き込んでいく役だとのことで、みなさんご自身が周りの誰かを翻弄したり、逆に翻弄されたことがあればそのエピソードを教えてください」という質問に各自が答えることに。
中でもまず会場を盛り上げたのは古田の
「その時々、ヒドく愛した女かな……(笑)」
というフレーズ。
さらに早乙女からは
「『髑髏城の七人』Season月で、本番中に健太が自分のセリフじゃないところで、急にセリフを言い始めたことがあって。そこまでの周りのセリフを聞いていなかったんでしょうね、みんなの後ろで目立とうとしてちょこちょこ何かやっていて。あれは最近起きた中で一番翻弄された時間でした」
と本番中ハプニングの暴露があり、それを受けて須賀が
「いや、後ろでちょこまかしていたのはそういうお芝居だったんです! そうしたら舞台上で間があってすごく静かになっていたので、自分の番だと思いこんでしまって。舞台にいるみなさんが全員お客さんみたいな顔で俺の顔を見ていたので、その場ですぐ「すいません!」と言いました(笑)。逆に僕も、ふだんから早乙女太一さんに翻弄されているんですよ。よく誘っていただいてごはんをご一緒するんですが、僕しか呼ばれていないもんだと思って喜んで行くと柄本時生くんがいて、あ、俺は二番目なんだなと(笑)。そうやって僕だって翻弄されているんです」
と、二人の仲の良さが伝わるコメントが語られました。
さらに池田は会場を騒然とさせた、昔の経験談をここで披露。
「僕がたまたま田舎に帰省した時、留守番電話のメッセージを聞こうと、公衆電話から自宅に電話をしたんです。昔はプッシュ回線でピポパと押すと用件が聞けましたよね。すると渡辺いっけいがずっと下ネタをしゃべっていまして。テープが終わるまで延々入っていたので私も怒りまして、渡辺いっけいとは一時絶交していたんです。それから20年以上経って、その話を古田くんにしましたらニヤッとしたんですね。実は古田くんの、いっけいさんの声マネだったんです。私といっけいさんは同い年で仲が良かったのに、その友情を壊し、その後もずっと俺に何も告白しないという。非常に根が深い翻弄をされた記憶がございます。ということで、みなさんもあまり古田くんの言うことは信用しないでください」
と言うと、古田が早速
「もしもし、なるし? わたなべでーす」
と、その声マネを再現。一同爆笑のうちに、会見は終了となった。
少しずつではありますが謎が見えてきたような、でもまだまだ謎だらけのような……? とはいえ、クセのある登場人物だらけの、笑いとアクション盛りだくさんの舞台になることは間違いありません! いのうえ歌舞伎≪亞≫alternative『けむりの軍団』、7/15(月・祝)の東京公演初日開幕をどうぞお楽しみに!!