/けむり/ヴィジュアル撮影 レポート 池田成志篇

衣裳をつけメイクを終えてフロアに出てきた池田成志さんのいでたちを見た途端、「まるで台本から飛び出てきたみたい」「ホンモノの美山さん、キター!」と、スタジオには拍手と共に早くも爆笑が巻き起こっています。劇団☆新感線39興行・夏秋公演の『けむりの軍団』で謎の浪人、美山輝親役に扮する池田さんは、なんとこれが新感線には13回目の参加。もはやスタッフ陣も、ほとんどが馴染みの顔だらけの模様で、アートディレクターの河野真一さんも今回のヴィジュアル撮影のコンセプトについて「説明します……っていうか、改めて説明なんていらないか?」とニヤニヤ。「うん、別にいいよ、こんな感じでしょ?」と笑顔で逃げるポーズをとる池田さん。

「それにしても想像通りに汚してもらったなあ!」「これって、史上最高の汚さじゃない?」「いや、さすがに、がめ吉(『蜉蝣峠』で梶原善さんが演じたキャラクター)には負けるかも」などなど、スタッフたちが口々に語るように、今回の池田さんは見事なほどにあっちもこっちもボロボロ、髪もボサボサ。しかし意外にもこのボロボロの衣裳、よく見ると桔梗や椿など花の柄が入っていて、衣裳スタッフに聞いてみたところによると 実は高級な“辻が花染め”の生地からできているのだとか。

自分の立ち位置の正面に用意された姿見を見て、自らポーズと表情を作る池田さん。中腰で片足を上げ走るような体勢にして「こういう感じ?」と聞くと、河野さんが「やっぱり、わかってるねえ!」とOKサイン。が、数分で「これ、俺だけがキツいポーズなんじゃない?」「古田なんか座ってるだけでラクそうだったぞ」「俺、もう軽く汗かいてるし!」とネガティブなコメントが徐々に漏れ出てきました。実際、腰を落として片足を上げてキープするのはかなりキツそう。そこで、カメラマンの相澤心也さんが「じゃ、成志さんが足を上げるタイミングに合わせます!」と提案。それ以降は「せーの、ハイ!」の掛け声に合わせて、シャッターが切られていきます。

あっという間に汗だくになってしまった池田さん、「いつも新感線の撮影ってキツイんだよなー!」とボヤきが止まりません。とはいえ、「もっとカッコイイ顔で撮りたいんだけど、できない?」という河野さんの注文には「黙っててもらっていい?」と即答。早速、キリっと表情を引き締めて撮影に臨むのですが……しばらくすると、おどけた表情になり、目を見開いたり、舌を出したり……。「だから、顔……。どうしてもやりたいんだな。俺はカッコイイのが撮りたいのに」と河野さんからツッコまれると「わかってるって! 身体がキツくなると、ついこうなっちゃうの!!」との言い訳に、思わず吹き出すスタッフたち。

小道具の笠をかぶったり、木箱の上に足を載せてポーズをとったりと、さまざまなカットを撮影していく中で、河野さんが「首まわりにヒラヒラする布がほしい」と言うと「ちょうどいいの、ありますよ!」と小道具スタッフが言い、古田新太さんの撮影時に小道具の一部として使用した布を再利用して使うことに。それを整えて首に巻いていると「ああして、じーっとスタンバイしている最中は本当にカッコイイのにねえ」と呟くスタッフ陣に、「サービスでふざけてやってるんだよ!」と叫ぶ池田さん。

その後も「ふゅー、えー、うわ、よっ、やるねー、ぐっ、ふふっ、ニヤリ、コー!」などなど謎の声を発しながら、二枚目風、三枚目風、どちらのカットにも全力で取り組む池田さんの姿に、スタジオ内の笑いは絶えないのでした。撮影終了後、池田さんにも『けむりの軍団』のこと、劇団☆新感線のことなど、語っていただきました。

――この劇団☆新感線の39興行・夏秋公演に出ることになった時、まずどう思われましたか。

サンキュー興行がどうというより、最初はこれが古田新太の35周年記念公演でもあるという話を聞いたので「また古田か!」と思いました(笑)。いや、ありがたい話だし僕自身はうれしいですけれども、果たして観てくださるみなさんは喜んでくれるんだろうかと。「また出るのかアイツ」と思われないかと、そのへんが心配です。がんばりますんで、よろしくお願いします。

――倉持裕さんが新感線に脚本を書くのは『乱鶯』に続き、これが二本目です。倉持さんと新感線の相性は、池田さんから見ていかがですか。

『乱鶯』を観た時、ちょっと大げさかもしれないですけど、僕は池波正太郎さんや藤沢周平さんが大好きなんですけれどもそちらに寄せたいのかな、と思ったんですよね。ちょっとビターな匂いのする、いい感じの劇でした、古田くんもシブくてね。だから今回もそういうムードでいくのかと思いきや、意外と黒澤明作品の『隠し砦の三悪人』とか、あのへんの活劇を意識したような台本になっているなあ、なかなかこれは大変だぞ、と思いました。しかも僕は冒頭からなんだかボロ雑巾のように殴られますからね。もはや本当に身体だけが心配ですよ。そんなに殴るの?っていうくらいに殴られまくりますから(笑)。古田くんとも共演経験は長いですけど、僕が古田を殴ったシーンなんて一回もないですよ。あいつから蹴られ、殴られ、簀巻きにされ、ビンタされ。今回も、これ、なにハラスメントだよ?って公演になるんじゃないでしょうか。サマーハラスメントですよ!

――サマーハラスメント、ですか?(笑)

サマーハラスメント、夏の暴力です! この夏、流行らせたいと思います。

――古田さんを殴ってみたかったですか?(笑)

いいえ。倍返しが怖いので。僕は極力、暴力はふるいません。されるだけです。サマーハラスメント!

――(笑)、しかも、その古田さんと一緒のシーンがとても多そうですが。

そうですね。いつもは敵対するキャラクターのほうが多いんですけれども。『秋味』(劇団☆新感線20th Anniversary豊年漫作チャンピオン祭り・秋味R『古田新太之丞・東海道五十三次地獄旅~踊れ!いんど屋敷』2000年)以来じゃないですか、こういう腐れ縁コンビみたいな役どころは。

――美山輝親という役柄については、いかがですか。

倉持くんの脚本だからちょっといい感じのお話になっているところもありますが、それを匂わせつつやるのか、まったく匂わせないでやるのか。どういうアプローチでいこうかというのは、今はまだちょっとわからないです。たぶん、いのうえさんが最終的にはめちゃくちゃにしそうな気もしますが。今のところは虚心坦懐というか、何も考えずに臨もうかなと思っています。(※インタビューは稽古前)

――ちょっと今回は、池田さんがこれまで新感線で演じてきた役柄とは一味違うキャラクターのようにも思いましたが。

だいたいはかき乱して、ふざけてんのか?って役が多うございますからね。でも、本当に『秋味』を思い出したんですよ。あれもムチャクチャなんだけど、意外にいい話だったし。あれは古田くんの役とは昔からの知り合いみたいな役だったけど、今回は出会ってから、だんだん関係が変わっていくみたいな話なので。ただ、お話がちゃんとしているだけあって、また長くなっちゃうんですかねえ。暑いのに、長いとイヤですよねえ。これもサマーハラスメントです!(笑) 活劇ではあるんで、なるべくシンプルに。そして二転三転するような話でもあるから、さらにスピードを上げてやりたいものです。

――改めて、新感線という劇団のどういうところに魅力を感じているのでしょうか。

魅力というよりもですね。結局、あいつはどう使っても文句をそんなに言わねえんだろうと思われている節があると思うんですね。ここ最近、さすがにケガ、病気、身体のメンテが非常に問題になってきたんですけれども、だいたい悪くなる契機になるのがいのうえひでのり演出への参加なんですよ。だからなおさら気をつけていこうと今、思っています。いや、楽しいんですよ、楽しいからやっちゃうんだけど。やっちゃったその先には、骨が曲がっただとか、腰が痛いだとか、どうもだるいだとか。ホント、今年の夏はあまり暑くなければいいな……。

――キャストのみなさんも、口々に心配されていましたよ。

でも、そんなこと言ってる連中のほうもヤバイですよ! だって劇団員と言っても、どこぞの若手劇団ではないんですから。結構、ロートル揃いですから。お互いに、身体に気をつけながらやっていくんじゃないかと思いますね。もう決して、博多に行ってもはしゃがず、騒がず、飲まずってことになるんじゃないでしょうか。きっと、毎晩騒いでいるのは古田くんくらいですよ。

――新感線の39興行ということにちなんで、あなたのサンキューを教えてください。

ありきたりですけど、基本的にずっと感謝しているのは家族ですね。それ以外だと、芝居を作っている演出家とか作家さんとか。大学生の頃から折々に出会った人が、非常に優秀な方ばかりで。もちろん、いのうえさんを始め、それぞれに影響を与えてくれる方が多かったんです。その関係がいまだに続いているわけなので、その方たちにはすごく感謝していますね。だから、この先もまた、これまで全然接点がなかった作り手の人たちとも会って感謝したいなと思います。

――そして、古田さんの新感線入団35周年ということについてもお祝いコメントをいただけますか。

おう、古田、おめでとう。身体が心配だから、もうあまり飲み過ぎないように。身体をいたわって、がんばってくれよ。以上です。

――では最後に、お客様へもお誘いのメッセージをお願いします。

古田くんにはこう言いましたけれど、35年、それも真ん中でやり続けるというのもなかなか珍しいとは思っているんですよ。みなさんも、われわれを老人になったと思っているでしょうが。まあ、悪い癖で切羽詰まるとついつい、やっちゃうんですよ。でも決して、舞台をヒヤヒヤしながら観ないでほしいんです。こいつらは絶対ケガなんかしないんだと思いこんでいただいて、それで暑い夏を一緒に乗り切りましょう! ぜひとも、よろしくお願いいたします。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

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