前号でご紹介した古田くん演じる十兵衛と成志さん演じる輝親。この二人の珍道中が物語の中心なのですが、それに巻き込まれるというか乗っかってくるのが若い二人の男女です。それが清野菜名さん演じるおてんば姫・紗々姫(ささひめ)と、須賀健太くん演じる忠義だがからっきし弱い侍・雨森源七(あまもりげんしち)。
稽古場前室でのお二人。同い年の24歳。ええと、源七は紗々姫には頭が上がらないのです。
まず今作の背景をご説明いたしますと、戦国末期に争っている二つの国があります。強大な力を持つ「目良(めら)家」と、その隣国である「厚見(あつみ)家」。かつては敵対していましたが現在は同盟を組んでいます。その人質として、厚見家当主の妹である紗々姫が、目良家当主に正室として輿入れしているのです。
ところが! 目良家はその同盟を反故にして厚見領に侵攻を開始しました。驚いたのは紗々姫さん。自分が人質になっていたままでは厚見家も反撃しにくい。という訳で、源七と共に目良家を抜け出したのです。
その脱出行で出逢ったのが十兵衛と輝親の二人。その後、なんだかんだあって四人は行動を共にします。なんとかして目良領を抜けだし、厚見領へと辿り着きたい。作戦会議も開きます。
といっても四人は一枚岩ではありません。それぞれに思惑があり、それぞれに言い分がある。仲良く一緒に逃げ出すという訳にはいきません。
それでも目良家の追っ手は迫ってくるし、何やら謎な勢力も絡んできます。逃げざるを得ないのです。ドタバタしながらも力を合わせて進むことになります。
ここで稽古場レポートらしく、演出風景でもレポートしましょうか。いのうえさんの演出は指定が細かく、ニュアンスを伝えるために自分でやってみせるタイプだというのは有名な話ですね。では、紗々姫と源七に演出を付けている様子をご覧下さい。
はやる紗々姫を源七がなだめているのでしょうか。手を引きながら何やら説得しています。このようにいのうえさんが源七役もやってみせながら動きを決めていっているんですね。
このシーンの続きもお見せしましょう。
説得に掛かる源七を紗々姫がたしなめているようなのですが、え? いのうえさんが今度は紗々姫役を? そうなんです。それぞれの役をその度にやってみせているんですね。そういう演出方法なのです。
ただ、こうして稽古している時はそれぞれ自分の演技をしていますので、当然いのうえさんの方は見ていないのです。でもいのうえさんも動いています。体を動かすタイプの演出家。それがいのうえひでのりさんです。
実は、今回のゲストチームは全員がIHIステージアラウンド東京の経験者。つまりいのうえ演出経験者ですし、劇団員とも旧知の仲です。稽古のやり方も慣れたもの。倉持さんの軽妙なセリフも相まって、稽古中も笑いが絶えずにスムースに進行しております。
小返し稽古直前に、いのうえさんが何やら面白いことでも言ったのでしょうね。スタンバイしたお三人も手を止めて聞いています。ちなみに、その後ろで後ろ向きに手を広げているのは舞監補佐の浜崎さん。別に好きでここに居るのではなくて、ここに幕がありますよという係です。ここから後ろには行けませんよという印です。
十兵衛、輝親、紗々姫、源七、この四人のドタバタ脱出行を中心に、小粋な会話のやりとりもあれば大人数の大乱闘もある『けむりの軍団』。意外と近いぞ東京公演。先は長いぞ福岡・大阪公演。この夏、この秋、一緒に戦国時代を旅しませんか? ご来場をお待ちしております。