/けむり/ヴィジュアル撮影 レポート 高田聖子篇

「カッコイイ!」「強そう!」「悪そう!」「お歯黒!」「怖い!」と、高田聖子さんが準備を終えて控室から出てきた途端、なぜかみんな短い言葉で感想を叫ぶスタッフたち。今回、高田さんが演じる嵐蔵院は位の高い役だとはいえ、立場的には悪役のポジション。眉毛を潰し、白塗りに近い顔色に、口元はお歯黒のインパクトが強烈です。衣裳スタッフに聞くと、この金糸と銀糸が入った打掛は織ったあとに色を染めているそうで、すごく手が込んでいるものなのだとか。

すると「第三の目として、ホクロをつけたい!」という、アートディレクター・河野さんの急なリクエストに、ヘアメイク・宮内宏明さんがすぐさま“つけボクロ”を用意。早速、高田さんの額の真ん中に装着すると、今度は「目がみっつ!」「威力ある!」「悪いことしかしなさそう!」と、またまた盛り上がるスタッフ陣。

嵐蔵院用に準備してある小道具は、懐剣と扇。まずは8種類並べた扇の中から、河野さんがセレクトしたのは地は金色でゴージャスな花々が描かれた一本。それとは別に自分用にも手に取り、それを持ちながらポーズを指示していきます。カメラマンの相澤心也さんが、青い照明が髪や飾りに当たるように機材の位置を微妙に修正していると、ちょうど自分の真正面に姿見の鏡が用意され、ここで改めて自らのヴィジュアルをまじまじと見た高田さん。「ハハッ!」と思わず自分でも笑ってしまっています。

また、河野さんから「老獪さが滲み出るように、手をもっとカサカサした感じにしたい。爪も死んだ爪みたいにして」と言われた宮内さん、高田さんの手の甲に血管を目立たせるような老けメイクを追加。さらにマニキュアではなく、アイライナーを使って爪の付け根部分だけを黒く縁取るように塗っていきます。撮影が始まると、高田さんは重心を後ろにして身体を反ったり、左右にねじってみたりしてポーズを微妙に変えていきます。手に持った扇子もスッと前に差し出したり、逆向きに持ってみたり、半分だけ閉じて掲げたり、といろいろ工夫して動いていると「さすが聖子さん、うまいなあ」「扇もいろいろな持ち方があるね」とモニター周りで頷くスタッフたち。

相澤さんからの「すごくいい、そのままカメラを冷たい目で強く睨んでください」「俺を殺すつもりで口元はニヤッとしてみてください」「次は、にゅっと首を伸ばす感じで」などという、なんだか妙なリクエストにも「ハイハイ」と言いながら、ニヤーリと不気味な笑みを浮かべたりして応える高田さん。河野さんに「食われそうだ!」なんて言われても、「それ、毎回言われてる気がするなー」と余裕の苦笑いで返しています。

続いて「歯も見せたい」と言われると、「あー!」と口を大きく開けたり、口を開き気味でいかにも悪そうに微笑んだり。「これもいいな!」「眉ナシ、似合うよね」とモニター画面を見ながらチェックしているところに、ちょうど須賀健太さんがスタジオに現れ、この撮影風景を見て「すっげー!」と一言。それに気づいた高田さん、手を振り合う二人……なんだかちょっと不思議な光景です。「笑うとよけい怖いよ」と言われた高田さんも、自らモニター画面を見に行き「これは……妖怪や!」と爆笑。

そんなオモシロ怖い写真の数々を無事に撮り終えた高田さんにも、今回の作品についてや演じる役どころのことなどを伺ってみました。

――今回の舞台の詳しい話を聞いた時は、どう思われましたか。

まず、倉持さんが脚本を書かれるということをお聞きしたので、だったらコメディかなと思ったんですが。特にコメディ……というわけではないようですね(笑)。でもなんとなく、物語のもとになる、根っこになるようなところは落語っぽいような雰囲気を感じました。ちょっと、昔話風というか。倉持さんならではの、ほんのりとしたユーモアみたいなものもありつつ、年老いた新感線らしさもあって。いわゆる冒険活劇ではない、けれどワクワクするような、でもちょっと悲しいような、重いようなものも感じさせつつ。これまで39年間続けてきた、われわれに似合う作品を書いてくださったんだなと思いました。

――『乱鶯』にも出られていた高田さんから見た、新感線と倉持さんの相性は。

相性は、私にはよくわからないけど、でも『乱鶯』の時は劇団員のみんながとても楽しそうだったので、口にするのが楽しいセリフなのかなと思いました。時々、違う感じの言葉をしゃべるというのは、いいものですよ。あの時は古田さんだけが、セリフが多いとブツクサ言うて苦しんでいましたね。

――今回の台本を読んだ感想としては?

セリフがすごく多い印象です。だけど、会話の楽しさみたいなものはすごく感じました。でも、きっとまた古田先輩が文句を言うんじゃないかなと予想しています(笑)。

――そして今回の高田さんが演じるのは、嵐蔵院という役どころですが。

このとおり、お歯黒です(笑)。しかも、なんと同い年の河野まさとさんの母親役だというね。

――びっくりしますね。

そうなんです、あれ?って。まあ、いいんですけど。あの方、奇跡の51歳なのでね(笑)。

――では、ぜひその奇跡をフルに発揮していただくとして(笑)。嵐蔵院さまのキャラクターとしては、どんなイメージですか。

春日局のイメージなんですかね、女性政治家みたいなところもあるので。だけど女性政治家というよりも、もっと母親の部分とか女の人がちょっとムキになる時の嫌な感じを、堂々と持っているような人じゃないのかなと思いました。

――わかりやすく言うと……いわゆる、ワル役。

そうですね。新感線って、たいていワル役かそうじゃないかという、頭の悪い分け方をする劇団ですから。そういう意味では、ワル役です(笑)。だけど悪役のほうが、わけがわからない分、より愛してあげようと思いますね。みんなから嫌われる役になるだろうから(笑)、せめて私くらいは正当化してあげようと思います。

――今回、特に楽しみにしていることというと?

楽しみねえ、なんでしょうね。今回の客演陣は、なんというか親戚みたいな人ばかりですから。特に新鮮ではないんですけど(笑)、妙な安心感があります。特に“けむりチーム”とは接触しないようにしようと思います……って、嘘です、そんなこともないです(笑)。たぶん、このメンバーなら今回もまたオモシロおかしくやれるでしょうから、悪役としてはそのさだめを背負って、そのオモシロおかしいほうにはあまり引っ張られないように気をつけたいと思います。

――さっき、撮影中にすれ違った須賀さんとは『髑髏城の七人』Season月(上弦)で共演されていたわけですが、今回はまただいぶ立場が変わりますね。

お歯黒を塗った私の姿を見て、「俺の太夫が……!」って言っていましたからね。「あれは、マボロシだよ」と言っておいたから、きっと大丈夫だと思います(笑)。

――清野菜名さんとは共演経験があるそうですが。

劇団チョコレートケーキの公演(劇団チョコレートケーキwithバンダ・ラ・コンチャン『ライン(国境)の向こう』2016年)で共演していまして。あの時は母娘の間柄でした。だから今でもよく「母さん、母さん」と、呼ばれています(笑)。

――今回は大きく関係性が変わりそうですね。

仇というか、本当は近くに置いておきたかったけど思い通りにならなかった女、ということですね。

――早乙女太一さんとは。

もう長いので、すっかり安心しています。なんといっても、彼が17歳の時から知っていますから。親戚の子みたいな感覚ですね。稽古場でジュース飲んでアイス食べていた頃から知っているわけなので。それがもう、お父さんなんですからねえ。

――そして、池田成志さん。

むしろ逆に誰よりも、成志さんが一番心配です。はしゃがないでほしいと思います。でも、いかにもはしゃぎそうな役で。

――しかも、出番が多いみたいですね。

そうなんです。とにかく、ケガをしないでほしいです。みんなが、成志さんの身体を心配しています。

――そして今回は古田さんが、劇団に入って35周年だということですが。

えー、35周年ですか! おめでとうございます。先輩が35周年ということは、私は32周年だか33周年だか、じゃないかと思います。私のことも祝ってください……以上です!(笑)

――劇団39周年にちなんで、高田さんからサンキューコメントをいただけますか。

39年間、私はここにいるわけではないですけれど。39年もこうして生き残らせてくださったみなさんに、感謝しかないですね。ありえないです。借金まみれだった劇団が、まさか1万円以上するチケットを多くの方に買っていただく劇団にまでしてもらって。これも、ちょっとどうかしているみなさまのおかげですよ(笑)。だってそうでしょう、そもそもパンティーとかウンコとかばっかり言っていた劇団ですよ? 忘れているかもしれないですが。

――今回の『けむりの軍団』は、その頃とはすっかり違う方向に?

いや、パンティー魂、ウンコ魂は、消していません。むしろずっと燃えています……!(笑)本当はそういうのも久しぶりにやりたいんですけどね。今回こそ、サンキュー興行だからそうじゃないかと思っていたのに。もう私たちでは厳しいと思われたのかな、みんな懲りちゃったのかなあ?

――では最後に、お客様に向けてお誘いのメッセージをお願いします。

今回はネタモノではないですけれど、台本を読む限り本当にとても面白いです。その面白さに負けないようにがんばりますので、みなさま、楽しみにお待ちください。

TEXT:田中里津子 撮影:田中亜紀

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